Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0209) THANK YOU / ROYAL TRUX 【1995年リリース】

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ROYAL TRUX〔ロイヤル・トラックス〕は#0199で取り上げたTHE JON SPENCER BLUES EXPLOSION〔ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン〕(以下、JSBX)と同様、ワシントンD.C.出身のノイズ・ロックバンドPUSSY GALORE〔プッシー・ガロア〕から派生したバンドだ。


バンドと書いたが、実際にはNeil Michael Hagerty〔ニール・マイケル・ハーガティ〕(vocals, guitar / ♂)とJennifer Herrema〔ジェニファー・ヘレマ〕(vocals / ♀)のカップルによるデュオと書くべきなのかもしれない。


上記のとおり、JSBX もROYAL TRUX もPUSSY GALOREから派生したバンドなのだがその音楽性は大きく異なる。


筆者は、JSBXの方は大抵のアルバムが好きなのだが、ROYAL TRUXの方は正直なところ好きなアルバムが少ない。


特にROYAL TRUXがインディー・レーベルからリリースしているアルバムには苦手なものが多い。


とりわけ初期のアルバムは、筆者の耳には「ジャンキーが垂れ流したノイズ」にしか聴こえないし、実際にこの二人はジャンキーだ。


筆者は、「ドラッグをやることにより素晴らしいロックが生み出された」という理論には懐疑的である。


素晴らしいロックを生み出したミュージシャンの多くにはそもそも才能がある上に、日々弛まぬ努力を続けた結果、そが素晴らしいロックに結び付いたのだと思っている。


もしかすると、ドラッグなんてやらずに健康でいた方がもっと素晴らしいロックを生み出せていたかもしれない。


ドラッグで夭折したFREE〔フリー〕のPaul Kossoff〔ポール・コゾフ〕なんて、ドラッグに蝕まれる前の方が生き生きとしてタイトでブルージーなギターを弾いている。


理不尽な障碍や病で健康を失い苦しむ人だってこの世には沢山いるのだから、健康な体を自らドラッグで痛めつけて不健康にするようなアホなことは止めなさいと言いたい。


ROYAL TRUXの二人のことは、ショーモナイ奴らだと思っているのだが、彼らがメジャー・レーベルのヴァージンからリリースした5thアルバム「THANK YOU」は好きでよく聴いている。


筆者は、アーティスト自身と、そのアーティストが生み出した作品は分けて考える人間なので、今回は筆者にとってその代表とも言えるROYAL TRUXの「THANK YOU」を取り上げてみた。

 

#0208) SURF / POGO POPS 【1996年リリース】

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POGO POPS は洋楽雑誌CROSSBEATの新譜紹介のコーナーで3rdアルバムの「PURE」が取り上げられていて、その美しいアルバム・カヴァーに惹かれて買ったのが出会いだった。


バンド名にPOGOという言葉が入っているため、ライヴ会場で観客がポゴ・ダンスをしまくるパンク・バンドかなと思っていたのだが、実際にはTHE BEATLESザ・ビートルズ〕の系譜を受け継ぐメロディが秀逸なオーセンティックなロック・バンドだった。


筆者が聴いたことのあるPOGO POPS のアルバムは、3rdアルバムの「PURE」と、4thアルバムの「SURF」のみであり、どちらも素晴らしいメロディが楽しめる名盤なのだが、どちらかと言うと「SURF」を聴いた回数の方が多いので、今回は「SURF」を取り上げることにした。


POGO POPSはノルウェー出身のバンドだ。


ノルウェー出身のアーティストと言えば、筆者の世代(2019年現在でアラフィフ)では、1980年代に活躍したPRETTY MAIDS 〔プリティ・メイズ〕、a-ha〔アーハ〕、TNTティー・エヌ・ティー〕、STAGE DOLLS〔ステージ・ドールズ〕辺りだ。


1990年代にはTHE YUM YUMS〔ザ・ヤム・ヤムズ〕というパワー・ポップ・バンドも登場した。


POGO POPSも含めて、ノルウェーのアーティストはいずれもメロディが優れているという印象が強い。


そして、同じ北欧でも隣国スウェーデン出身のメロディが優れたアーティストとは、異なるメロディ作りのセンスを持っているような気がする。


「それは思い込みだろ」と言われれば、そんな気がしなくもないのだが、やはりメロディにはその国の音楽の歴史的な背景が盛り込まれるのではないだろうか?


筆者はノルウェーの歴史について全くの無知だが、ノルウェー出身のアーティストに何となく共通して感じるメロディ感覚は「温かさ」である。


POGO POPSは特にその傾向が顕著で、今回取り上げた「SURF」は1曲目の"My Mind Explodes"が「これ以上ない」というくらい温かい気持ちにさせてくれるメロディであり、その後、アルバムのラストまでその温かみが続き大団円を迎える作品に仕上げられている。


POGO POPSは2019年6月現在で日本語版のWikipediaのページがないくらい日本ではマイナーなバンドだが、この「SURF」というアルバムを知ってもらいたくて今回取り上げてみた。

 

#0207) BURN MY EYES / MACHINE HEAD 【1994年リリース】

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MACHINE HEAD〔マシーン・ヘッド〕というバンド名は、あのDEEP PURPLE〔ディープ・パープル〕の大名盤「MACHINE HEAD」から拝借したのだろうか?


いずれにしても、「MACHINE HEAD」なんていうロックの歴史に燦然と輝く大名盤のタイトルをバンド名に掲げる以上、相当の覚悟が必要なはずだ。


MACHINE HEADというバンドは、今回取り上げる1stアルバム「BURN MY EYES」一枚でMACHINE HEADを名乗るに相応しいバンドであることを証明してしまった。


このバンドはデビュー当時、PANTERA〔パンテラ〕のフォロワー的な扱いを受けることが少なからずあった。


確かにPANTERAが当時のメタル界に衝撃を与えた大名盤「VULGAR DISPLAY OF POWER」のリリースが1992年、MACHINE HEADの「BURN MY EYES」のリリースが1994年なので、MACHINE HEADがPANTERAから何らかのヒントを得ていることは間違いなさそうだ。


メタル系のバンドの多くは、弦楽器のチューニングを半音下げ、1音下げ、1音半下げ等、ダウンチューニングにして演奏することが多く、PANTERAもダウンチューニングを用いているのだが、「この曲は何音下げ」と言われているとおりにチューナーを使ってチューニングしても微妙に違っているように感じることがある。


これはもうPANTERA、というよりギタリストであるDimebag Darrell〔ダイムバッグ・ダレル〕独特の感性としか言いようがない。


そして、MACHINE HEADも、ギタリスト/ヴォーカリストであるRobb Flynn〔ロブ・フリン〕独特の感性でチューニングされた、何とも心地良いと感じる(ただし、聴く人によっては気持ち悪いと感じる)重低音のリフを叩きつけるバンドなのである。


MACHINE HEADは後のアルバムではヒップ・ホップからの影響を取り入れてニュー・メタル化していくのだが、この1stアルバム「BURN MY EYES」の土台はRobb FlynnがMACHINE HEADの前にやっていたVIO-LENCE〔ヴァイオレンス〕から引き継いだスラッシュ・メタルである。


このアルバムは55分という比較的尺の長い作品なのだが、起承転結のはっきりとした曲構成と、意外なほど古典的な感触のギター・ソロが詰めまれており、聴きどころが多く最後まで飽きることなく聴き続けることが出来る。


MACHINE HEADは次作以降も試行錯誤を繰り返し、極めて質の高いアルバムを出し続けるのだが、「BURN MY EYES」を超える衝撃的なアルバムは未だに出せていないように思える。

 

#0206) VOICE OF AMERICA / Little Steven 【1984年リリース】

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ロック界のソロ・アーティストには右腕と呼べるような存在が寄り添っていることがある。


そして、時にはその右腕が主役を喰ってしまうほど目立つことがある。


例えば、筆者は初めてBilly Idol〔ビリー・アイドル〕のシングル"Rebel Yell"のミュージック・ヴィデオを見た時、主役であるBilly Idol本人よりも、その傍らでギターを弾いている「ド派手なカッコ良い男」のインパクトが大きすぎて、Billy Idolよりも、その「ド派手なカッコ良い男」の方が気になって仕方がなかった。


後にその「ド派手なカッコ良い男」がSteve Stevens〔スティーヴ・スティーヴンス〕であることを知るのだが、ロック界には時折、こういう主役の右腕でありながら主役を喰ってしまうバック・バンドのミュージシャンがいるのである。


グラム・ロック時代のDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕のバック・バンドTHE SPIDERS FROM MARS〔ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ〕のギタリストだったMick Ronson〔ミック・ロンソン〕も同じく主役の右腕でありながら主役を喰う存在だと言えるだろう。


今回取り上げるSteven Van Zandt〔スティーヴン・ヴァン・ザント〕も、主役であるBruce Springsteenブルース・スプリングスティーン〕の右腕でありながら、時に主役を喰ってしまう派手な男だと言える。


Steven Van Zandtは、Little Steven〔リトル・スティーヴン〕やMiami Steve〔マイアミ・スティーヴ〕の二つ名で知られるギタリストだ。


そのキャリアは、Bruce Springsteenのバック・バンドであるE STREET BAND〔Eストリート・バンド〕のメンバーとして、或いは、Southside Johnny〔サウスサイド・ジョニー〕に多くの楽曲を提供したソングライターとして著名だ。


今回取り上げたのはそんな彼の2ndアルバム「VOICE OF AMERICA」である。


Little Steven名義でリリースされ、収録曲の全ては彼によって書かれ、演奏は彼のバック・バンドであるTHE DISCIPLES OF SOUL〔ザ・ディサイプルズ・オブ・ソウル〕が担当している。


ロックン・ロールはもちろん、ソウルやR&B、そして時にはレゲエまでもが飛び出す幅広い音楽性は実に味わい深く、このアルバムを一枚聴くだけでSteven Van Zandtというアーティストの懐の深さが見えてくる。


この懐の深さ故、彼はボスやSouthside Johnnyから大きな信頼を得られる存在に成り得たのだろう。

 

#0205) MUSIC FROM BIG PINK / THE BAND 【1968年リリース】

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THE BAND〔ザ・バンド〕は、活動拠点を米国に置きながらも、メンバーはカナダ人が4人と米国人が1人という構成であり、「~出身」という表現が難しいバンドだ。


筆者が洋楽を聴き始めたのは1980年代初期なのだが、当時、毎月欠かさず購入していた洋楽雑誌のMUSIC LIFEには時々「過去の名盤特集」的な記事が載ることがあった。


そんな記事で必ず取り上げられるのがTHE BANDの1stアルバム「MUSIC FROM BIG PINK」か2ndアルバム「THE BAND」なのである。


洋楽ロックのファンというのは同時代のアーティストを一通り聴いた後、大抵の場合は「過去の名盤」に手を出し始めると思うのだが、そんな時に参考になるのが上記の「過去の名盤特集」的な記事なのである。


そういう訳で、今回取り上げるTHE BANDの1stアルバム「MUSIC FROM BIG PINK」は、筆者がかなり若い時(16~17歳頃)に聴いた「過去の名盤」であり、ロックの歴史においては既に古典である。


このアルバムは、筆者自身のロック人生において、#0195で取り上げたGRATEFUL DEADグレイトフル・デッド〕の「AMERICAN BEAUTY」と並び、最初期に聴いた米国のルーツ・ミュージックに根差したロックだと言える。


ロックを齧り始めた頃の筆者は、英国のニュー・ウェイヴ(特に第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン勢)や米国のグラム・メタルを中心に聴いていた。


これらのアーティストの作品は、今でも好きでよく聴いているものも多数あるのだが、彼ら音楽的ルーツの多くは1960年代以降である場合が多く、それは即ちTHE BEATLESザ・ビートルズ〕以降とも言える。


それに対し、THE BANDが「MUSIC FROM BIG PINK」で鳴らしているロックの音楽的ルーツは、ロック誕生以前の米国のルーツ・ミュージックなのである。


このアルバムを初めて聴いた時のインパクトは凄いものがあり、THE BANDが奏でる音楽の「深み」に恍惚となったことを今でもはっきりと憶えている。


当時の筆者はブルースやカントリーを既に聴き始めていたのだが、それをこれほど巧みにロックに取り入れているアーティストを聴いたのはTHE BANDが初めてであり、ロックでこういうことが出来るということに驚いたのである。


そして、THE BANDの音楽と同じくらい、THE BANDという極めてシンプルなバンド名も好きだ。