Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0301) 21ST CENTURY ROCKS / Andy McCoy 【2019年リリース】

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筆者にとって、1980年代から活動しているロックン・ロール系ソングライターの二大巨頭と言えば、THE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕のTyla〔タイラ〕とHANOI ROCKSハノイ・ロックス〕のAndy McCoy〔アンディ・マッコイ〕だ。


この同世代(Tylaはたぶん1961年生れ、Andy McCoyは1962年生れ)のソングライターは創作活動が対照的である。


Tylaはファンが着いて行くのがしんどくなるほどの多作なソングライターだが、Andy McCoyは次にいつ彼の曲が聴けるかわかなないほどの寡作なソングライターだ。


そんな寡作なソングライターのAndy McCoyが昨年(2019年)、漸く重い腰を上げてソロ・アルバム「21ST CENTURY ROCKS」をリリースした。


Andy McCoyがAMORPHIS〔アモルフィス〕のメンバー等と結成したバンドGREASE HELMET〔グリース・ヘルメット〕がアルバムをリリースしたのが2012年なので、「21ST CENTURY ROCKS」はAndy McCoyがメインで関わっているフル・アルバムとしては7年ぶりのリリースとなる。


そして、ソロ・アルバムとしては1995年にリリースした「BUILDING ON TRADITION」以来となるので、実に24年ぶりのリリースとなる(驚くべきことにソロとしては3rdアルバムである)。


筆者はどんな分野であれ、基本的にクリエイターは多作であるべきだと思っている。


作品のリリースが少ない寡作なクリエイターというのは何だか勿体付けているようで、鼻についてあまり好感が持てない。


しかし、Andy McCoyだけは「まぁ、この人だったら仕方がないか」と許せてしまうのである。


何故なら、たまに届けてくる作品が尋常ならざるクオリティを備えているからだ。


ニュー・アルバムの「21ST CENTURY ROCKS」は24年前の「BUILDING ON TRADITION」と何も変わっていない。


Andy McCoyのルーツであるブルース、R&B、ロックン・ロールが基本であり、そこにラテンの要素が加味されたアルバムだ。


ただ、全ての曲がAndy McCoy以外には絶対に書けないメロディを備えており、全てが名曲と言える出来のアルバムに仕上がっているのだ。


きっと、この人にとって、これくらいのクオリティは朝飯前なのだろう。


願わくは、もう少しリリースのペースを上げて欲しいものである。

 

#0300) ON / DEMOLITION DOLL RODS 【2004年リリース】

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1980年代後半から1990年代前半にかけて活動したデトロイトガレージ・ロック・バンドTHE GORIES〔ザ・ゴーリーズ〕が解散し、Mick Collins〔ミック・コリンズ〕が結成したバンドがTHE DIRTBOMBS〔ザ・ダートボムズ〕、そして、Dan Kroha〔ダン・クロハ〕が結成したバンドが今回取り上げてるDEMOLITION DOLL RODS〔デモリション・ドール・ロッズ〕だ。


THE DIRTBOMBS、DEMOLITION DOLL RODS、共にTHE GORIESの遺伝子を受け継ぐガレージ・ロック・バンドなのだが、DEMOLITION DOLL RODSはTHE GORIESと同じベースレスの3ピースバンドである。


このDEMOLITION DOLL RODSというバンドをご存じでなければ、ぜひ、ググって彼ら(彼女ら)のグループ写真を見て頂きたい。


このバンド、メンバー全員が、ほぼ裸である。


裸になるロック・ミュージシャンと言えば、例えばIggy Popイギー・ポップ〕、Glenn Danzig〔グレン・ダンジグ〕、Henry Rollins〔ヘンリー・ロリンズ〕等、逞しくビルドアップされた身体を持つ人が多い。


しかし、DEMOLITION DOLL RODSの場合、男×1+女×2の3ピースバンドなのだが、男はガリガリ、女はポッチャリという体形であり、所謂美しい裸ではない。


そんな3人が裸で演奏するガレージ・ロックは、なかなかシュールな面白さがあるので、動いている彼らの姿は一見の価値がある。


こう書いてしまうと、DEMOLITION DOLL RODSがコミック・バンドであるかのように誤解されてしまいそうだが、音楽的にはかなり正統派のガレージ・ロックであり、映像無しで音楽だけを聴いても十分にカッコ良いバンドだ。


2000年代以降の米国におけるガレージ・ロック・バンドの代表と言えば、商業的な成功や後に与えた影響という意味合いにおいてもTHE STROKESザ・ストロークス〕とTHE WHITE STRIPES〔ザ・ホワイト・ストライプス〕の二つを挙げるのだが妥当なのだろう。


もちろん筆者もこの二つのバンドはよく聴いていたのだが、それ以上によく聴いていたのがDEMOLITION DOLL RODSやTHE DIRTBOMBSだった。


DEMOLITION DOLL RODSのアルバムはどれを聴いてもそれほど大きな違いは無いのだが、取っ付きやすいキャッチーさを持つという点では3rdアルバムの「ON」をお勧めしたい。


ただし、音楽をあまりにも真面目に捉えすぎる人に対しては、DEMOLITION DOLL RODSはちょっとお薦めし難いバンドでもある。

 

#0299) VS. / PEARL JAM 【1993年リリース】

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PEARL JAMパール・ジャム〕の1stアルバム「TEN」はリリースと同時に購入して聴いたのだが正直なところ最初はイマイチな印象だった。


シアトル・グランジではPEARL JAMより先に聴いていたNIRVANAニルヴァーナ〕、SOUNDGARDENサウンドガーデン〕、ALICE IN CHAINS〔アリス・イン・チェインズ〕の方が圧倒的に好きで、それらと比較した場合、PEARL JAMの「TEN」はモッサリしていると言うか、田舎っぽいと言うか、曲は良いのだが、どこか垢抜けない印象があった。


それでも度々CDラックから「TEN」を取り出して聴いてしまう理由はEddie Vedderエディ・ヴェダー〕という稀代のシンガーの深遠な歌声が聴きたかったからである。


言うなれば「TEN」というアルバムは、ストレートパンチでぶっ飛ばされるようなアルバムではなく、ボディブローのようにジワジワと効いてくるアルバムだったのである。


そんなこんなで2ndアルバム「VS.」がリリースされるという情報を洋楽雑誌でキャッチし、「まぁ『TEN』くらいのアルバムやったらえぇやろ」という、ちょっと舐めた気持ちで「VS.」を購入して聴いたのだが、このアルバムは見事なストレートパンチだった。


CDを再生し、1曲目の"Go"が始まって、ものの数十秒でノックアウトされたのである。


よく言われることだが、初期のPEARL JAMというバンドはシアトル・グランジ勢の中で最も古典的なハード・ロック色が強い。


筆者のような、1980年代のメタル・バブルに洗礼を受け、そこから遡って1970年代のハード・ロックを掘り起こし、そこにドップリと嵌った者にとって、PEARL JAMの「VS.」は最も入り易いグランジのアルバムなのではないかと思う。


グランジというと、1990年代初頭に登場した(当時の)新しいロックなわけだが、PEARL JAMの音楽性にはこれと言った新しさは殆ど無く、むしろ1970年代に通ずるストレートなアメリカン・ハード・ロックなのである。


また、このバンドは、特にシンガーのEddie Vedderはドラッグとは殆ど無縁であり、今でも生き続けているという逞しさは尊敬に値する。


グランジというジャンルからは残念ながら多くの死者が出てしまったが、大切な命を自殺やドラッグで散らしてしまう人よりも、たとえ無様な姿になったとしても地に足を付けて逞しく生き続ける人の方に筆者は共感する。


PEARL JAMには、この先70歳になっても80歳になっても元気で頑張り続けて欲しいものである。

 

#0298) VISAGE / VISAGE 【1980年リリース】

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筆者が洋楽を聴き始めた頃に売れていたアルバムと言えばDURAN DURANデュラン・デュラン〕の「SEVEN AND THE RAGGED TIGER」やCULTURE CLUBカルチャー・クラブ〕の「COLOUR BY NUMBERS」であり、これらは1980年代初頭に英国で興ったニュー・ロマンティック・ムーヴメント終焉期の作品だ。


しかし、これらの人気アーティストはニュー・ロマンティックを象徴する存在ではない。


象徴する存在というのは、例えば時代を1970年代に遡るなら、グラム・ロックにおけるMarc Bolanマーク・ボラン〕および彼のバンドT. REX〔T・レックス〕とDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕、サザン・ロックにおけるTHE ALLMAN BROTHERS BAND〔ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド〕とLYNYRD SKYNYRDレーナード・スキナード〕のような、そのジャンルやムーヴメントの発端となり、且つ、シンボル的な存在のことだ。


であるならニュー・ロマンティックを象徴する存在は、1980年に「KINGS OF THE WILD FRONTIER 」をリリースしたAdam Ant〔アダム・アント〕率いるバンド ADAM AND THE ANTS〔アダム・アンド・ジ・アンツ〕と、同じく1980年に「VISAGE」をリリースしたSteve Strange〔スティーヴ・ストレンジ〕をフロントに立てたシンセポップ・ユニットVISAGE〔ヴィサージ〕ということになる。


ADAM AND THE ANTSは既にこのブログで取り上げているので、ニュー・ロマンティックのもう一つの象徴であるVISAGEも取り上げなければバランスに欠けるので、今回はVISAGEの1stアルバム「VISAGE」を取り上げることにした。


筆者にとって、「VISAGE」というアルバムはリアルタイムで聴けた作品ではないのだが、中学時代の筆者にはEちゃんという洋楽に詳しい同級生の女子がいて、彼女より更に洋楽に詳しい彼女のお姉さんからカセットテープに「VISAGE」を録音してもらい聴くことができた。


このアルバムはメロディが秀逸な80’s風の無機質なシンセポップなのだが、色々な音楽を聴いてきた今の耳で改めて聴いてみるとDavid Bowieのベルリン三部作(イーノ三部作)、中でも「"HEROES"」からの影響が強いように思われる。


これはたぶん、VISAGEのブレインであるULTRAVOX〔ウルトラヴォックス〕のMidge Ureミッジ・ユーロ〕のセンスによる音作りなのだろう。


Steve Strangeも、自身が経営していたクラブでDavid Bowie Nightを開催していた人物なのでBowieへの憧憬が「VISAGE」を聴くと直ぐに分かる。


VISAGE」というアルバムを聴いていると、英国におけるBowieの影響力というのは、もしかするとTHE BEATLESザ・ビートルズ〕を超えているのではないかと思えてくるのである。

 

#0297) IRON MAIDEN / IRON MAIDEN 【1980年リリース】

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筆者が洋楽を聴き始めたのは中学生の頃であり、時代としては1980年代初期だ。


それ故、英国で1980年頃から興り始めたNew Wave Of British Heavy Metal(以下、NWOBHM)というヘヴィ・メタルの歴史に刻まれる一大ムーヴメントにはタッチの差で間に合っていない。


当時、洋楽雑誌MUSIC LIFEのバック・ナンバーを購入し、そこに掲載されていたNWOBHMバンドを紹介する記事を読んで、「自分が洋楽を聴き始める少し前にはこういうムーヴメントがあったのだな」という思い耽るだけでレコードを聴くまでには至らなかった。


DEF LEPPARDデフ・レパード〕だけは3rdアルバム「PYROMANIA(邦題:炎のターゲット)」が大ヒットしていたので彼らがNWOBHM出身ということを意識せずに聴いていたが、NWOBHMというムーヴメントを意識し、そこから登場したバンドに俄然興味が湧き始めたのは後にスラッシュ・メタルを聴くようになってからだ。


もちろん、その理由はスラッシュ・メタルのルーツの一つがNWOBHMだからだ。


同級生のH君(彼はバリバリのスラッシャーであり、高校生としては凄腕のギタリストだった)からMETALLICAメタリカ〕の「MASTER OF PUPPETS」とSLAYER〔スレイヤー〕の「REIGN IN BLOOD」を借りてスラッシュ・メタルに目覚めた筆者に対し、H君が「次はこれやな」と言って貸してくれたのが今回取り上げているIRON MAIDEN〔アイアン・メイデン〕の1stアルバム「IRON MAIDEN」だった。


H君はメタルを解り切っていたので1stアルバム「IRON MAIDEN」は絶妙のチョイスであり、これを聴いて筆者はIRON MAIDENに嵌ったのである。


これが6thアルバム「SOMEWHERE IN TIME」だったら、ちょっと状況は違っていたような気がする。


スラッシュ・メタルを初めて聴いた時は複雑な曲構成をも持ちながらもハードコア・パンクに由来する粗暴なところに魅力を感じたのだが、IRON MAIDENを聴いた時は複雑な曲構成はスラッシュ・メタルと同様ながらも1曲1曲が極めて高度に制御されている上にメロディも起伏に富んで流麗であることに感銘を受けた。


1stアルバムでありながら、その内容は極めて高い音楽的教養が無ければ制作できないものであり、新人バンドのレベルではないのだ。


ちなみに、NWOBHMの四天王はIRON MAIDEN、DEF LEPPARD、GIRL〔ガール〕、WILD HORSES〔ワイルド・ホーシズ〕ということになっているらしいが、この中で純粋にヘヴィ・メタルと言い切れる音楽性を持つバンドはIRON MAIDENだけである。