Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0456) 不遇だったが最高だったUKロックとアイリッシュ・ロック(90年代前期)

Adorable [アドラブル]

origin: Coventry, England, U.K.

[comment]
 何故かシューゲイズにカテゴライズされることのあるバンドだが、バンドのフロントマンである Piotr Fijalkowski (vo, gt) [ピョートル・フィヤルコフスキー] はシューゲイズを嫌っており、筆者もこのバンドはシューゲイズではないと思っている。
 Piotr のヴォーカルは「ささやき系」ではなく、エモーショナルに歌い上げるタイプなので、メロディー・ラインの設計がシューゲイズとは根本的に異なるのだ。
 1stシングルの "Sunshine Smile" がインディー・チャートで1位となり、英国のメディアやリスナーから注目を集めたものの、1stアルバム Against Perfection をリリースした頃にはメディアやリスナーから掌を返したように冷たくあしらわれた不遇のバンド。
 この時期の新人バンドは、The Stone Roses のフォロアー(マッドチェスター)か、My Bloody Valentine のフォロアー(シューゲイズ)でなければ受け入れて貰い難かったのだろうか?
Against Perfection は Echo & the Bunnymen や The House of Love の系譜を受け継ぐ、由緒正しいポストパンク/ニュー・ウェイヴの名盤だ。
 それ故「Ian McCulloch が歌う The House of Love」と揶揄されたりもしたが、Echo & the Bunnymen を敬愛し、バンド解散後は The House of Love の Terry Bickers (gt) と活動を共にする Piotr にとって、それは誉め言葉だ。
 2ndアルバム Fake も名盤であり、特にバンドのラスト・シングルにもなった "Vendetta" は Adorable というバンドの美学が凝縮された名曲である。

【1993】Against Perfection [アゲインスト・パーフェクション]
1st

【1994】Fake [フェイク]
2nd


Power of Dreams [パワー・オブ・ドリームス]

origin: Dublin, Ireland

[comment]
 このバンドのデビュー・アルバム Immigrants, Emigrants and Me には、10代のときにしか表現できないイノセンスが詰め込まれている。
 特に2ndシングルでもある "100 Ways to Kill a Love" を聴いたときは、普段ロックの歌詞を殆ど意識しない筆者なのだが、心に突き刺さってくるプリミティヴな言葉と美しいメロディーに瞬殺されてしまった。
 彼らは、というか、特にフロントマンの Craig Walker (vo, gt) は、母国アイルランドの英雄 U2 が大嫌いで、当時のインタビューでは「大丈夫かな」と心配になるくらいストレートに U2 を批判していた。
 相反して、隣国イギリスの The Smiths が大好きで、再結成後の復活アルバム Ausländer リリース時のインタビューでは「残りの人生で1曲だけ聴けるなら?」という質問に対して、"Some Girls Are Bigger Than Others" と答えるほど、Craig Walker の The Smiths に対する思い入れは深い。
 今、思えば、Power of Dreams は、ソングライティングも達者で、唯一無二の個性もあるのだが、色々な意味で世に出るのが早すぎたバンドだったような気がする。
 とは言え、矛盾しているが、下積みのドサ回りで擦れてしまった彼らを聴きたいとも思わない。
 特に、デビューから2ndアルバム 2 Hell with Common Sense までの彼らを聴いていると、もう二度と取り戻せない失ってしまった大切なものへの思いが蘇り、少し悲しい気分になる。

【1990】Immigrants, Emigrants and Me [イミグランツ・エミグランツ・アンド・ミー]
1st

【1992】2 Hell with Common Sense [トゥ・ヘル・ウィズ・コモン・センス]
2nd


The Seers [ザ・シアーズ]

origin: Bristol, United Kingdom, U.K.

[comment]
 UKロックという言葉からイメージする音楽は人それぞれだと思うのだが、ポストパンク/ニュー・ウェイヴからの影響が薄いロックは、UKロックの定義から外れるような印象がある。
 それ故、例えば The Dogs D'Amour、The Quireboys、The Wildhearts などを聴いているときは、UKロックを聴いているという意識が稀薄であり、それはこの The Seers についても同じである。
 The Seers は、彼らより少し前に登場した Zodiac Mindwarp & the Love Reaction や Crazyhead に近いワイルドなロックン・ロール・バンドなのだが、僅かではあるがUKロックぽっさがあるのが面白い。
 デビュー・アルバムの Psych Out は掛け値なしでロックン・ロールの歴史に残る名盤であり、1曲目 "Wild Man" の短めで妖しげなアコギから始まり、突然爆発する展開は、Hanoi Rocks の名盤 Back to Mystery City を思い出させる。
 このバンドの知名度は、The Stooges、New York DollsRamonesBuzzcocks あたりのレジェンドと比較すると圧倒的に低いのだが、楽曲の水準は互角だ。
 しかし、この時代は、バギー・パンツを履いてマラカスを振って踊り狂うか、俯きながら陰鬱なギターを轟音で掻き鳴らかの、いずれかがトレンドであり、ストレートなロックン・ロール・バンドには分が悪かった。
 2nd の Peace Crazies はロックン・ロール色が後退し、サイケデリックになったのだが、これはこれで捨てがたい魅力のある名盤だ。

【1990】Psych Out [サイケ・アウト]
1st

【1992】Peace Crazies [ピース・クレイジーズ]
2nd


~ 総括 ~

 今回取り上げたバンドは、全て1990年代前半に登場したUKバンドとアイリッシュ・バンドなのだが、非常にクオリティーの高い作品をリリースしながらも、時代の流れに翻弄され、消えていったバンドだ。

 同時代における、筆者にとっての2代巨頭は SuedeManic Street Preachers、そこに2組加えて四天王にするなら Teenage Fanclub と The Divine Comedy が入る。

 今回取り上げた、Adorable、Power of Dreams、The Seers は、上述した筆者にとっての四天王と比較すると、商業的には大きな成功を収めていないと思うのだが、筆者にとっては四天王と同じくらい大切なバンドだ。

 他にも取り上げたいバンドが何組もあるのだが、一度に多くのバンドを取り上げてしまうと焦点がぼやけてしまいそうなので、厳選して特にお気に入りのバンドを3組だけ選んだ。

 いずれまた、同じタイトルで第二弾を書きたいと思う。

#0455) ポストパンク/ニュー・ウェイヴ 私の7大アーティスト(80年代前半)

Bauhaus[バウハウス

origin: Northampton, England, U.K.

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1st  1980/11/03  In the Flat Field
[暗闇の天使]

 本人たちは、そう呼ばれることを嫌がってるが、紛れもなくゴシック・ロックの元祖だ。
 凄まじいカリスマ性を放つシンガーの Peter Murphy に注目が集まりやすいバンドだが、緊張感に圧殺されそうな楽器隊の奔放な演奏も凄い。
 特に、Daniel Ash のノイズと音楽の狭間のようなギターは唯一無二だ。
2nd  1981/10/16  Mask
[マスク]

 ゴスのテイストは残っているが、デビュー・アルバムと比較すると、格段に音楽的な曲が増えており、良い意味でデビュー・アルバムの暗黒感が薄まっている。
 Bauhaus のディスコグラフィーでは、最もキャッチーなアルバム。
 デビュー・アルバムよりも、これを Bauhaus の最高傑作と言う人も多い。
3rd  1982/10/22  The Sky's Gone Out
[ザ・スカイズ・ゴーン・アウト]

 エクスペリメンタルでありながら、キャッチーでもあり、複雑なのに聴きやすいという、奇跡的なアルバム。
 Eno のカヴァー曲 "Third Uncle" は、David J (ba) と Kevin Haskins (ds) による性急なリズムが最高だ。
 現在は別作品となっているライヴ・アルバム Press the Eject and Give Me the Tape は、元はこのアルバムのボーナス・ディスクだった。
4th  1983/02/15  Burning from the Inside
[バーニング・フロム・ジ・インサイド

 Peter Murphy (vo) が病気療養中の間に、Daniel Ash (gt) と David J (ba) のヴォーカルでレコーディングを進めるという、まさか?のアルバム(もちろん Peter が歌っている曲もある)。
 後に楽器隊メンバーが結成する Love and Rockets 風のアコースティック・サイケな曲もある。
 美しいのだが、強烈に「終わり」を感じさせるアルバムだ。

Echo & the Bunnymen[エコー&ザ・バニーメン]

origin: Liverpool, England, U.K.

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1st  1980/07/18  Crocodiles
[クロコダイルズ]

 今、改めて、このデビュー・アルバムを聴くと、へそ曲がりな英国の評論家から絶賛されたのは理解できるものの、一般リスナーからも絶大な人気を得られたことが不思議で仕方がない。
 ポップ・ミュージックらしい予定調和を排除し、自らのアートを極めた音には神々しい輝きがある。
 特に 凍てつく夜を切り裂くような Will Sergeant のリヴァーブの効いたギターが最高だ。
2nd  1981/05/30  Heaven Up Here
[ヘヴン・アップ・ヒア]

 このアルバムを初めて聴いたときから、もう40年くらい経つのだが、メンバー4人が佇む美しいカヴァーを見るだけで、彼らの奏でる寂寥感溢れる演奏が聴こえてきそうで鳥肌が立つ。
 単に完成度の高さを求めるなら 3rd か 4th なのだが、この 2nd には当時の彼らだけが持つ魔法がかけられている。
 曇天を切り裂くような鋭利なギター、その裂け目から差す薄明りのようなメロディー、完璧である。
3rd  1983/02/04  Porcupine
[ポーキュパイン (やまあらし)]

 オープニング曲 "The Cutter" のイントロがバグパイプっぽくて、初っ端から意表を突かれる。
 商業的に最も成功したアルバムらしいのだが、確かに 2nd で追求した思い詰めたような内省は若干影を潜め、僅かながらメインストリームのロックあるいはポップ・ミュージックへの接近が試みられている。
 ただし、そこはやはり「エコバニ」であり、ヒリヒリとしたとした緊張感は微塵も失われていない。
4th  1984/05/04  Ocean Rain
[オーシャン・レイン]

ラピスラズリのようなディープ・ブルーのカヴァーは、そのまま、このアルバムの世界観を表しており、これほどカヴァーと曲のイメージが一致しているアルバムは、なかなか無いのではないだろうか?
 そして、そのタイトルが Ocean Rain って...付けた人、天才やん!
 成熟という次の段階への始まりを感じさせるアルバムであると共に、到達点を感じさせるアルバムでもある。
5th  1987/07/06  Echo & the Bunnymen
[エコー&ザ・バニーメン]

 当時、U.K. 出身の多くのポストパンク/ニュー・ウェイヴ系バンドは、U2 の米国での成功を意識しており、Echo & the Bunnymen も、その例外ではなく、このアルバムは米国での成功を狙って制作されている。
 結果としては、彼らの特徴である怜悧な切れ味が削がれてしまっており、成功したとは言い難い。
 しかし、今改めて聴くと曲の完成度は高く、解散~再結成前では、緊張せずに聴ける唯一のアルバムである。

Killing Jokeキリング・ジョーク

origin: Notting Hill, London, England, U.K.

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1st  1980/10/00  Killing Joke
[黒色革命]

 インダストリアル・ロックの始まりについては諸説あるが、後の Ministry や Nine Inch Nails へと繋がる系譜は Killing Joke から始まったと言っても差し支えないだろう。
 文字通りindustrial(工業)を連想させるような、固く冷ややかな音である。
 特に Geordie Walker の無機質でノイジーなギターが後のインダストリアル・ロックに与えた影響は計り知れない。
2nd  1981/06/00  What's THIS For...!
[リーダーに続け]

 この時代のポストパンク/ニュー・ウェイヴ系バンドは、エスニックとかトライバルとか呼ばれるリズムを取り入れるのが流行っていたのだが、このアルバムもその一つだろう(Paul Ferguson のドラムが神懸っている)。
 その効果なのか、粗削りだった前作に比べると、個々の曲が緻密に構築されているように聴こえる。
 筆者は 1st 派だが、リズムに華があるので、こちらを最高傑作に推す人も多い。
3rd  1982/07/00  Revelations
[神よりの啓示]

 この時期、Jaz Coleman (vo/key) と Geordie Walker (gt) がアイスランドに渡り、当地でオカルトに傾倒するという怪しげな行動をしていおり、その訳が分からなさが作風にも影響している。
 前2作で示した破壊力のあるインダストリアル・ロックは影を潜め、掴みどころのない音になった。
 オカルトみないなものには本気で傾倒せず、Black Sabbath のようにポーズとして利用すべきなのだろう。
4th  1983/07/00  Fire Dances
[ファイアー・ダンス]

 Jaz (vo/key) と Geordie (gt) がアイスランドから英国に帰国して制作された、ちょっと呪術的な 4th アルバム。
 何故か Youth (ba) が脱退し、後任は The Dogs D'Amour の Tyla とバンドを組んでいた Paul Raven で、彼は後にインダストリアル・メタルの大御所 Ministry や Prong に参加する名ベーシストだ。
 前作のような掴みどころのなさは後退し、次作に通じるキャッチーな曲もあり、バンドの状態がは確実に復調している。
5th  1985/02/00  Night Time
[暴虐の夜]

 過去最高にキャッチーなアルバム(ただし、次作、次々作では更にキャッチーになるのだが)。
 インダストリアル・ロックの神髄を知りたいのであれば、最初に聴くべきは 1st アルバムなのだが、ある程度は音楽的で且つロック的なメロディーも欲しいのであれば、このアルバムから入るのもありだ。
 「殺生」と「冗談」という相反する単語を並べたバンド名の如く、彼らの音楽性は振り幅が大きいのである。

The Psychedelic Furs[ザ・サイケデリック・ファーズ]

origin: London, England, U.K.

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1st  1980/03/07  The Psychedelic Furs
サイケデリック・ファーズ]

 The Psychedelic Furs という名前ほどサイケ感はなく、同時代のネオ・サイケデリア系ハンドとは一線を画す。
 サックス奏者を含む6人組というバンド編成はデビュー当時の Roxy Music を彷彿させるのだが、実際、このバンドの一捻りも二捻りもしたポップ・ロックは Roxy Music からの影響もありそうだ。
 ただし、シンガーの Richard Butler は、Bryan Ferry ではなく David Bowie からの影響が大きい。
2nd  1981/05/15  Talk Talk Talk
トークトークトーク

 デビュー・アルバムの音はモノクロームな印象があったが、この 2nd の音は4色カラー印刷になった印象がある。
 この後、3rd から 4th にかけて、ポップ路線に舵を切ることになるのだが、既にその萌芽を見出すことができる。
 1986年公開の米国の映画『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』の脚本は、本作収録の "Pretty in Pink" にインスパイアされて書かれているのだが、曲を元にして映画が制作されるというのは珍しいパターンなのではないだろうか。
3rd  1982/09/21  Forever Now
[フォーエヴァー・ナウ]

 元来、メインストリームに打って出ることができるくらい「花のある楽曲」を書けるバンドだったが、この 3rd では明確にメインストリームへの進出を意識して楽曲を制作している印象がある。
 ただし、これまでのファンを捨てるほどの変化ではなく、その辺りのバランスの取り方が上手い。
 メインストリームとオルタナティヴの比率は 4:6 という感じだ。
4th  1984/08/24  Mirror Moves
[ミラー・ムーヴス]

 メインストリームとオルタナティヴの比率を 6:4 という具合に、その比率を前作と逆転させており、このバンドのイメージを壊すことなく、ギリギリまでメインストリームに接近したアルバムだ。
 メランコリーな曲が多いのだが、Richard Butler の少し掠れ気味の声質とマッチしていて心地よい、
Duran DuranJohn Taylor が、年間のベスト・アルバムに、このアルバムを挙げていた。
5th  1987/02/02  Midnight to Midnight
[ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト]

 このアルバムは明確に米国での成功を意識した音作りがされており、モノクローム→4色カラー印刷という具合に音に色彩を与えてきた彼らが、いよいよフルカラー印刷に踏み切った。
 当時は好きになれなかったのだが、今、改めて聴いてみると曲の良さに気付かされる。
 映画『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』のサントラ用に "Pretty in Pink" をリメイク収録している。
6th  1989/10/31  Book of Days
[ブック・オブ・デイズ]

 前作 Midnight to Midnight は、プロデューサーの Chris Kimsey によるクリアーでゴージャスな音作りが功を奏し、このバンドをメインストリームに押し上げた。
 しかし、彼らは、「この音は自分たちに合っていないのかもしれない」という思いがあったのではないだろうか?
 この 6th では華美な要素が排除され、初期のプリミティヴな音に戻っており、安心して聴くことができる。

Simple Minds[シンプル・マインズ

origin: Glasgow, Scotland, U.K.

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1st  1979/04/20  Life in a Day
[駆け足の人生]

 ポストパンク/ニュー・ウェイヴ系アーティストは、(表向き)ハード・ロックに距離を置き、70年代前半のグラム・ロックを通過し、70年代後半のパンクに触発されてバンドを始めた人が多い。
 Jim Kerr (vo) と Charlie Burchill (gt) は、共に1959年生まれなので、まさにその世代である。
 これは「David BowieRoxy Music が好きで、パンクも好き!」という感じの微笑ましいアルバムだ。
2nd  1979/11/23  Real to Real Cacophony
[リアル・トゥ・リアル・カコフォニー]

 デビュー・アルバムのパンクっぽいザラつきは殆ど無くなり、ダークなシンセポップになった。
 デビュー・アルバムと、この 2nd を続けて聴くと、別のバンドかと感じるくらい変わっている。
 このバンドは、日本での人気が低かったので洋楽雑誌のインタビューを殆ど読んだことがなく、バックグラウンドが分からないのだが、たぶん西ドイツのクラウトロックからの影響があると思う。
3rd  1980/02/12  Empires and Dance
[エンパイアーズ・アンド・ダンス]

 2nd から 4th にかけての Simple Minds は、バンド史上、最も尖っていた時期なのだが、特に、このアルバムの切れ味は同時代のシンセポップ・バンドの中でも群を抜いている。
 人工的な加工が施された音と、欧州的な陰りが絶妙にマッチしている。
Manic Street PreachersThe Holy Bible のアートは、これからインスパイアされている。
4th  1981/09/04  Sons and Fascination/Sister Feelings Call
[サンズ・アンド・ファシネーション]

 Jim Kerr (vo) は小堺一機っぽくなり、Charlie Burchill (gt) は加藤茶に似てきてしまったが、この時期の彼らは本当にカッコ良く、英国のトップレベルにいる独創的なロック・バンドだった。
 前作よりも硬質になった音は、当時のシンセポップの最高峰であり、今も古くなっていない。
 CD 化にあたり、ボーナス・ディスクだった Sister Feeling Call とニコイチしたのは蛇足だ。
5th  1982/09/17  New Gold Dream (81–82–83–84)
[黄金伝説]

 2nd ~ 4th で「尖りまくりのシンセポップ・バンド」としての「Simple Minds 第一章」は終わった。
 このアルバムは、Simple Minds が自らの聖域に踏みとどまりながら、ギリギリまでメインストリームに接近したアルバムであり、より幅広いリスナーを獲得したロック史に残る名盤である。
 今の筆者にとっては 80年代へのノスタルジーを激しく刺激するアルバムの一つでもある。
6th  1984/02/06  Sparkle in the Rain
スパークル・イン・ザ・レイン]

 このアルバムで Simple Minds は自らの聖域から一歩踏み出し、メインストリームへの勝負に打って出た。
 結果として初の全英1位を獲得し、大勝したのだが、Simple MindsSimple Minds らしかった最後のアルバムであり、これ以降、暫くはスタジアム・ロック路線を突き進む。
 この後、外部ソングライターの書いた "Don't You (Forget About Me)" を大ヒットさせることになる。

Southern Death Cult → Death Cult → The Cult[サザン・デス・カルト → デス・カルト → ザ・カルト]

origin: Bradford, West Yorkshire, England, U.K.

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Compilation  1983/00/00  The Southern Death Cult
[サザン・デス・カルト]

 後に The Cult へと発展する Southern Death Cult のコンピレーション・アルバム。
 シンガーの Ian Astbury は、ネイティブ・アメリカン文化への憧憬が強く、このアルバムが放つトライバルな音からも、それを感じ取ることができる。
 Ian は歌い上げるシンガーであり、ポストパンク/ニュー・ウェイヴ出身のシンガーとしては異色の存在だ。
EP  1983/00/00  Death Cult
ブラザーズ・グリム

 次の The Cult 以降でも不動のギタリストとなる Billy Duffy が参加した Death Cult の EP。
 The Cult の デビュー・アルバム Dreamtime にも収録される "Horse Nation" を聴くと、いかにも未完成の The Cult という感じで、なかなか面白い。
 後に、シングル "Gods Zoo" の収録曲等を加え、Ghost Dance というタイトルでリイシューされる。
1st  1984/08/31  Dreamtime
[スピリットウォーカー/夢を見るだけ]

 バンド名をシンプルに The Cult と縮め、漸くリリースされたデビュー・アルバム。
 ゴシック・ロックの超名盤 2nd の Love や、ハード・ロックに転向した 3rd の Electric を聴いた後では線が細く感じられるが、Ian Astbury の歌唱力は同系統のバンドのシンガーを凌駕している。
 Ian Astbury (vo) と Billy Duffy (gt) のペンによる楽曲の完成度も高い。
2nd  1985/10/18  Love
[ラヴ]

 ゴシック・ロックを代表する超名盤なのだが、ハード・ロックへの接近は既に始まっている。
 このアルバムにより、The Cult は狭いゴシック・ロックの世界から一歩踏み出すことに成功した。
ハード・ロック好きの筆者にとっては、次のアルバムへの期待が否が応でも高まる内容なのだが、アンチ・ハード・ロックのファンにとっては一抹の不安を感じさせる内容なのだろう。
3rd  1987/04/06  Electric
[エレクトリック]

 予想どおりのハード・ロックであり、ポストパンク/ニュー・ウェイヴの成分は一欠片も無い。
 ギターの音はカラカラに乾いているが、ヴォーカルには湿り気を帯びた陰りがある。
 このアルバムへの影響源は、Led Zeppelin、Free、Bad Company、AC/DC 等であり、ここから聴き始めた人は、このバンドがポストパンク/ニュー・ウェイヴ出身であることには気付かないだろう。
4th  1989/04/10  Sonic Temple
ソニック・テンプル]



 前作が「押し」の名盤なら、今作は「押し」に加えて「引き」を備えたハード・ロックの名盤だ。
 当時のメタル・バブルのブームに乗って、米国のチャートでも成功を収めた。
 このアルバム以降、パーマネントなドラマーが不在となり、事実上、The Cult は Ian Astbury (vo) と Billy Duffy (gt) のプロジェクトのようになってしまったのが少し寂しい。
5th  1991/09/23  Ceremony
[セレモニー]

 前作を踏襲するハード・ロックだが、Ian のネイティブ・アメリカン信仰が濃く、しっとり感がある。
ElectricSonic Temple と比べると、何故か評価の低いアルバムなのだが(飽きられた?)、個人的には全く劣ることのないハード・ロックの名盤だと思っている。
 これにてハード・ロック3部作を終え、次作では時流に合わせてオルタナティヴ・ロックに接近する。

The Teardrop Explodes → Julian Cope[サ・ティアドロップ・エクスプローズ → ジュリアン・コープ

origin: Deri, Glamorgan, Wales, U.K.

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1st  1980/10/10  Kilimanjaro
キリマンジャロ

 物凄く完成度の高いデビュー・アルバムであり、特にホーンとオルガンの音が良い。
 ネオ・サイケデリアにカテゴライズされていたが、楽曲的には60年代から続く英国ロックの継承者である。
 このバンドのオルガンの使い方は、後に登場する Inspiral Carpets や The Charlatans あたりのマッドチェスター系バンドに影響を与えているのではないだろうか?。
2nd  1981/11/23  Wilder
ワイルダー

 あまりにも完成度の高いデビュー・アルバムを作ったバンドは長続きしないことが多い。
 このバンドも「また然り」であり、この 2nd アルバムをリリースした後、あっけなく解散している。
 筆者は、このアルバムをリアルタイムではなく、解散してから聴いているので、後出しジャンケンのような言い方になってしまうのだが、いかにも解散しそうな寂しさを感じさせる音なのである。
1st solo  1984/03/00  World Shut Your Mouth
[ワールド・シャット・ユア・マウス]

 バンド解散後、約3年のインターバルを経てリリースされたソロ・デビュー・アルバム。
 バンドの最終作(2nd) Wilder では失われて躍動感が、このアルバムでは復活しており、バンドのデビュー・アルバム Kilimanjaro に近いロック的な力強さが感じられる。
 Julian Cope というミュージシャンは、バンドというフォーマットが合わない人だったのだろう。
2nd solo  1984/11/09  Fried
[フライド]

 先ずは、亀の甲羅を背負うカヴァーに度肝を抜かれる(止める人は居なかったのか?)。
 全体的に、暗く内省的な曲が増えており、前作の躍動感が一気に後退している。
 80年代末以降の彼は、押し付けのキリスト教社会、白人至上主義、男性中心主義という、世界が抱える暗部に切り込んでいくのだが、このアルバムの暗さからは、その萌芽を感じることができる。
3rd solo  1987/03/02  Saint Julian
[セイント・ジュリアン]

 ポップなネオ・サイケという感じで、Julian Cope のアルバムの中では最も取っ付きやすい。
 聴きようによっては、この先、世界が抱える暗部に切り込んでいく前に、レーベルが喜ぶようなアルバムを「イタチの最後っ屁」のように1枚だけ作ったような気がしなくもない。
 次作から重いテーマのアルバムを制作するにあたり、過去と決別するための1枚なのかもしれない。

~ 総括 ~

 日本には「三羽烏」や「御三家」、或いは「四天王」という言葉があり、この手のものを選ぶ場合、3組か4組なので、7組というのは多すぎる。

 ただし、筆者にとって、今回取り上げた7組は、ポストパンク/ニュー・ウェイヴ出身の中で、群を抜いて聴いた回数の多いアーティストだったので、1組も欠くことができず、こうなってしまった。

 Bauhaus の Daniel Ash、Echo & the Bunnymen の Will Sergeant、Killing Joke の Geordie Walker は、筆者にとって、ポストパンク/ニュー・ウェイヴにおける3大ギタリストであり、この3人が後世に与えた影響は計り知れないと思っている。

 The Psychedelic FursSimple Minds は、アンダーグランドな領域から飛び出し、メインストリームを巧みに操った優秀なロック・バンドだ。

 The Cult は、ハード・ロックへの転身から全米での成功が鮮やかであり、過去の捨てっぷりが天晴れで気持ちよかった。

 Julian Cope は、バンド全盛時代の英国において、孤軍奮闘したソロ・アーティストであり、これは David Bowie 依頼なのではないだろうか?(否、Marc Almond がいるか?)

 一般的に、このジャンル出身の最大の大物は U2 で決まりなのだろう。

 それに続くのは、The CureDepeche ModeNew Order あたりなのだろうか?

U2 については、筆者は、U2War と、Echo & the Bunnymen の Porcupine を、同じ日に聴いてしまったのがいけなかった。

 Echo & the Bunnymen の切れ味の鋭さに嵌ったため、U2 が必要以上に「もっさい」感じに聴こえてしまったのだ。

The CureDepeche ModeNew Order は、いずれも、けっこう好きなのだが、そこまで嵌らなかったので、これは好みの問題としか言いようがない。

 やはり、筆者にとって、ポストパンク/ニュー・ウェイヴ出身のアーティストと言えば、今回取り上げた7組で決まりなのである。

#0454) Guns N' Roses 以降(80年代後期・米国)

1987

Faster Pussycat [ファスター・プッシーキャット]

origin: Los Angeles, California, U.S.

[comment]
 今回のタイトルは「Guns N' Roses 以降」なのだが、実は、このバンド Faster Pussycat は Guns N' Roses よりも先にメジャー・デビュー・アルバムをリリースしている(Faster Pussycat が 1987年7月7日、Appetite for Destruction が同年7月21日)。
 Faster Pussycat のバックグラウンドには、間違いなく Aerosmith と New York Dolls が存在するはずなのだが、この2つの70年代におけるロックン・ロール・レジェンドをミックスさせることに成功したバンドは、彼らが初めてだったのではないだろうか?

【1987】Faster Pussycat [ファスター・プッシーキャット生誕!]
1st

【1989】Wake Me When It's Over [ウェイク・ミー・ホエン・イッツ・オーヴァー]
2nd

【1992】Whipped! [ホイップ!]
3rd

 


1988

L.A. Guns [エルエー・ガンズ]

origin: Los Angeles, California, U.S.

[comment]
 このバンドのデビュー時のメンバーは、元 Girl の Phil Lewis (vo)、元 Guns N' Roses の Tracii Guns (lead gt)、元 Faster Pussycat の Kelly Nickels (ba) という顔ぶれで、デビュー直後には元 Keel ~ 元 W.A.S.P. の Steve Riley (dr) も加入したので、初っ端からスーパー・グループ的な存在感があった(rhythm gt の Mick Cripps だけは経歴が不明)。
 ちなみに、Guns N' Roses の Axl Rose は 元 L.A. Guns で、L.A. Guns の Tracii Guns は 元 Guns N' Roses なので、2つのバンドの関係はややこしい。
 G N' R 以降のバンドは、メタルよりもR&Rの成分の方が多いのだが、このバンドはR&Rよりもメタルの成分の方がが多い。

【1988】L.A. Guns [L.A.ガンズ "砲"]
1st

【1989】Cocked & Loaded [コックド・アンド・ローディド]
2nd

【1991】Hollywood Vampires [ハリウッド・ヴァンパイアーズ]
3rd

 


Jetboy [ジェットボーイ]

origin: San Francisco, California, U.S.

[comment]
 Jetboy というバンド名は New York Dolls の曲名と同じなのだが New York Dolls っぽさはなく、ベーシストの Sami Yaffa は元 Hanoi Rocks なのだが Hanoi Rocks っぽさはなく、シンガーの Mickey Finn はモヒカン刈りなのだが GBH っぽさはなく、結局のところ一番似ているのは AC/DC なのである。
 そもそも80年代のグラム・メタル・バンドの場合、AC/DC の影響を受けていないバンドを探す方が難しいのだが、良い意味で本家ほどの切れ味が無い適度にブルージーなR&Rは、同時代の AC/DC 系バンドの中では頭一つ抜けた作曲センスを持っていた。

【1988】Feel the Shake [フィール・ザ・シェイク]
1st

【1990】Damned Nation [ダムド・ネイション]
2nd

 


Circus of Power [サーカス・オブ・パワー]

origin: New York City, U.S.

[comment]
 このバンドがデビューしたとき、日本の洋楽雑誌では「ロサンゼルス の Guns N' Roses に対するニューヨークからの回答」という謳い文句で紹介されていた記憶がある。
 確かに、Guns N' Roses も Circus of Power も、ハード・ロックの要素を多分に持つロックン・ロールが基盤となっているので、上述の謳い文句も分からくはないのだが、Circus of Power の曲は G N' R ほどキャッチーではない。
 引き摺るようなミドルテンポの曲が多く、今あらためて聴いてみると、G N' R よりも、90年代に登場した Kyuss や Monster Magnet あたりのストーナー・ロックに近いような気がする。

【1988】Circus of Power [狼たちの夜]
1st

【1990】Vices [悪徳の街]
2nd

【1993】Magic & Madness [マジック&マッドネス]
3rd

 


Rock City Angels [ロック・シティ・エンジェルス]

origin: Florida, U.S.

[comment]
 明確に Guns N' Roses の二番煎じ的な形で登場したのは、このバンドが最初だったような気がする。
 レコード会社がゲフィン、メンバーのルックスもバッド・ボーイ風であり、どうしても G N' R を彷彿とさせる要素が多すぎて、当時の洋楽雑誌に載ったプロフィールを読んだときには単なるフォロワーとしか思えなかったのが正直な感想だった(たぶん、ゲフィンも「二匹目のドジョウ」のつもりで契約したと思う)。
 しかし、そんな思い込みは、デビュー曲の "Deep Inside My Heart" を聴いた瞬間に吹っ飛んでしまうのだが。

【1988】Young Man's Blues [ヤング・マンズ・ブルース]
1st

 


1989

Skid Row [スキッド・ロウ]

origin: Toms River, New Jersey, U.S.

[comment]
 Guns N' Roses の登場以降、米国のレコード会社はメタル系バンドの青田買いを激化させたのだが、G N' R の Appetite for Destruction に拮抗し得る完成度を持つデビュー・アルバムをリリースできたのは、このバンドだけだ。
 デビュー時における、同郷ニュージャージーの先輩 Jon Bon Jovi の支援は少なからずプラス作用があったはずだが、この支援がなかったとしても Skid Row というバンド名はロックの歴史に深く刻み込まれていたはずである。

【1989】Skid Row [スキッド・ロウ]
1st

【1991】Slave to the Grind [スレイヴ・トゥ・ザ・グラインド]
2nd

【1992】B-Side Ourselves [ビーサイズ・アワーセルヴズ]
EP

 


Bang Tango [バング・タンゴ]

origin:Los Angeles, California, U.S.

[comment]
 Bang Tango はグラム・メタルにカテゴライズされるバンドだが、ファンク・メタルにカテゴライズされることもある。
 特に、2nd の Dancin' on Coals は、このバンドのファンキーな要素が色濃く表れたアルバムなのだが、Red Hot Chili Peppers や Primus ほどファンクに軸足を置いているわけではなく、このバンドの軸足はメタルに置かれている。
 このバンドの音を、もう少しアーティスティックに、或いは、エキセントリックにすると、Jane's Addiction のようなバンドに近づくのではないだろか?

【1989】Psycho Café [サイコ・カフェ]
1st

【1991】Dancin' on Coals [ダンシン・オン・コールス]
2nd

 


Vain [ヴェイン]

origin: San Francisco Bay Area, California, U.S.

[comment]
Skid Row のことを「Guns N' Roses 以降、Appetite for Destruction に拮抗しうるデビュー・アルバムをリリースした唯一のバンド」と書いたが、実は、この Vain のデビュー・アルバム No Respect も、かなりそれに近いところまで行っている。
 Davy Vain の声質が粘着質で爬虫類的なことや、妖艶でダークな曲調は一般受けしにくいとは思うのだが、シーンが飽和し、似たような曲を書くバンドが多発したこの時代において、強すぎるほどの癖を持つ Vain というバンドにはメタル・ファンを惹き付ける輝きがあった。

【1989】No Respect [ノー・リスペクト]
1st

【1991】All Those Strangers [オール・ゾーズ・ストレンジャーズ]
2nd (Released in 2009)

【1993】Move On It [ムーヴ・オン・イット]
3rd

 


Junkyard [ジャンクヤード]

origin: Los Angeles, California, U.S.

[comment]
 ゲフィン・レコードは Guns N' Roses の二匹目のドジョウとして Rock City Angels を発掘したが、この Junkyard は、同じくゲフィン・レコードが発掘した三匹目のドジョウだ。
 こう書いてしまうと如何にも偽物っぽく感じてしまうかもしれないが、Minor Threat、Big Boys、Dag Nasty といった、その筋では有名なハードコア・パンク・バンド出身のメンバーによって結成されたバンドなので楽曲と演奏の質は高い。
 2nd の Sixes, Sevens & Nines は、オーセンティックなアメリカン・ハードR&Rであり、なかなかの名盤だと思う。

【1989】Junkyard [ジャンクヤード]
1st

【1991】Sixes, Sevens & Nines [シックスィズ、セヴンズ&ナインズ]
2nd

 


Dangerous Toys [デンジャラス・トイズ]

origin: Austin, Texas, U.S.

[comment]
 Guns N' Roses の四匹目のドジョウは、ゲフィン・レコードではなく、コロムビア・レコードから登場した。
スラッシュ・メタル/プログレッシヴ・メタル界隈では古株で且つ大物だった Watchtower を脱退したシンガー、Jason McMaster を中心に結成されたバンドなのだが、Watchtower とは大きく音楽性を変えているのでブームに便乗しようとした感じは否めない。
 ただし、曲の完成度は高く、変化に富んでおり、演奏もタイトで、「~目のドジョウ」のデビュー・アルバムの中では、このバンドのアルバムが一番飽きずに聴くことができる。

【1989】Dangerous Toys [デンジャラス・トイズ]
1st

【1991】Hellacious Acres [悪魔の遊園地]
2nd

 


Johnny Crash [ジョニー・クラッシュ]

origin: Los Angeles, California, U.S.

[comment]
 Guns N' Roses の四匹目のドジョウも、ゲフィン・レコードではなく、コロムビア・レコードから登場した。
 Johnny Crash は、New Wave of British Heavy Metal の中堅バンドだった Tokyo Blade のシンガー Vicki James Wright が、英国から米国のロサンゼルスに渡って結成したバンドだ。
 ただし、ブリティッシュヘヴィ・メタル的な湿り気を帯びた憂いは皆無であり、カラッカラに乾いた縦ノリのハードR&Rは AC/DC の優秀なエピゴーネンである(貶していない、褒めている)。

【1990】Neighbourhood Threat [ネイバーフッド・スレット]
1st

 


~ 総括 ~

 筆者がロックを聴き始めたのは、1982年、中学校1年生のときなのだが、リアルタイムで出会ったバンドの中で、最も衝撃を受けたバンドは Guns N' Roses (以下、G N' R) である。

 G N' R よりも少し前に、Mötley Crüe、Ratt、Poison、Cinderella といった、米国のグラム・メタル・バンドを好んで聴いていたのだが、G N' R は前出のバンドと比べると、もっとプリミティヴな印象があり、ギラギラと妖しく輝いていた。

 G N' R のギタリスト、Slash は Poison のオーディションに落ちているのだが、たぶん、その理由は技術的なことではなく、ヴィジュアル的に無理があるからではないだろうか?

 やはり、Poison のギタリストは、C.C. DeVille の方がヴィジュアル的に合っている。

 横道に逸れたので話を G N' R に戻す。

 筆者が G N' R を知ったのは、彼らのデビュー・アルバム Appetite for Destruction がリリースされる直前に、洋楽雑誌 MUSIC LIFE に掲載された特集記事だ。

 その記事は「今、ロサンゼルスの新世代バンドが熱い!」的な内容であり、G N' R、Faster Pussycat、L.A. Guns、Jetboy、Brunette が紹介されていて、Brunette 以外はメジャー・デビューしている(Brunette はレコード会社とのトラブルがあったようで、2014になって漸くデモ音源がリリースされた)。

 この記事は今でも鮮明に憶えていて、「新世代バンドは、70年代の Aerosmith や KISS に影響を受けていて、メタルよりもR&Rからの影響が大きい」ということが書かれていた。

 そして、当時、低迷していた Aerosmith と KISS も、これら新世代バンドとの相乗効果により復活の兆しがあるということも書かれており、実際、Aerosmith と KISS は、この時期を境に復活した。

 今回、紹介したバンドの中で、今でも大物として君臨しているのは G N' R だけであり、他のバンドはグランジ/オルタナティヴ・ロックの隆盛により、失速を余儀なくされた(G N' R も、けっこう失速した)。

 当時の筆者は、それを悲しく感じていたのだが、筆者自身、Alice in Chains、Stone Temple Pilots、Pearl JamSoundgardenNirvanaSoul AsylumGoo Goo Dolls あたりを聴きまくっていたので、ロック・リスナーの気持など、移ろいやすいものなのである。

 ただし、よく分からず、且つ、腹立たしかったのは、当時の、いくつかのグランジ/オルタナ系バンドのメンバーや、そのファンが言っていた「メタルは商業主義だから、けしからん!」という、子供っぽくて青臭い理屈だ。

 商業主義というのであれば、全てのロックは商業主義だ。

 インディー・バンドでも、レコードに価格を付けて、流通に乗せて販売し、そこから報酬を得ているのだから商業主義なのである。

 当時、「メタルは商業主義だから、けしからん!」という、しょーもない批判の矛先の矢面に最も立たされたバンドは、たぶん、G N' R だったような気がする。

 しかし、結果を見ると、G N' R は、今もなおロックの大物として君臨し、全盛期のメンバーに近い状態で復活してからは、大規模なツアーを継続しているので、そのタフネスぶりには凄いとしか言いようがない(ただし、アルバムのリリースが無いのは、けしからん!とは思う)。

 そして、全盛期の人気曲の殆どを作曲したギタリストの Izzy Stradlin が、「ギャラが気に食わないから俺は参加しない」というのも、プロらしくて好きだ(Izzy は、筆者が最も好きな G N' R のメンバーだ)。

 筆者は、「Izzy、君は正しいよ」と言って、彼に拍手を送りたい。

#0453) 好きなアート・ロック・アルバム10選

A


B

Axe Victim / Be-Bop Deluxe

[title]
Axe Victim [美しき生贄]
 1st album
 released: 1974

[artist]
 Be-Bop Deluxe [ビー・バップ・デラックス]
 origin: Wakefield, West Yorkshire, England, U.K.

[comment]
 Be-Bop Deluxe というバンドのデビュー・アルバムなのだが、聴いていると Bill Nelson というギタリストのソロ・アルバムなのではないかという気がしてくる。
 とにかく、全編にわたりギターを弾きまくっており、Bill Nelson は声に癖が無いので歌よりもギターの方が圧倒的に耳に残るアルバムであり、ヴォーカル・トラックを外してしまっても十分に成立するのではないだろうか?
 Bill Nelson は、David Bowie や Bryan Ferry (Roxy Music) の次にあたる世代なのだが、どの分野でも第2世代には優等生が多く、破天荒な魅力は薄いのだが全体を纏めるのが上手い。
 デビュー・アルバムのクオリティーの高さという意味では、Bowie や Ferry を超えている。

The Man Who Sold the World / David Bowie

[title]
The Man Who Sold the World [世界を売った男]
 3rd album
 released: 1970

[artist]
David Bowie [デヴィッド・ボウイ]
 origin: London, England, U.K.

[comment]
 個人的には、Bowie のアルバムの中では Ziggy Stardust より前(つまり、Hunky Dory以前)のアルバムがアート・ロック的だと感じており、その中でも The Man Who Sold the World が特に好きだ。
 初期の Bowie のアルバムでは最もハードかつヘヴィなアルバムであり、異色作でもある。
 このアルバムには3種類のアルバム・カヴァーがあるのだが、元々 "Metrobolist" というタイトルでリリースしようとしているときに用意していたアルバム・カヴァーが上の画像であり、筆者もこのアルバム・カヴァーが一番好きだ。
 こちらに視線を向けている男の顔が不敵不敵しく、いかにも世界を売りそうな、とんでもないことをやらかしそうな顔である。


C

The Human Menagerie / Cockney Rebel

[title]
The Human Menagerie [美しき野獣の群れ]
 1st album
 released: 1973

[artist]
Cockney Rebel [コックニー・レベル]
 origin: King of Prussia, Pennsylvania, U.S.

[comment]
 日本の The Yellow Monkey のデビュー・アルバムを聴いたとき「なんか Cockney Rebel っぽい」と思ったのだが、後に吉井和哉Cockney Rebel をフェイヴァリットに挙げているのを見て得心した。
Cockney Rebel は Bowie や Roxy と近い位置に居ながら良い意味で下世話な感じの場末感があり、80~90年代のバンドで例えるなら、SuedeBlur ではなく Pulp なのである。
 William Shakespeare (ウィリアム・シェイクスピア) を生んだ国ということに関係があるのかないのか分からいのだが、英国のアート・ロックは演劇からの影響が強いような気がする。
 Steve Harley のヘナヘナの歌は全くもってロック向きではないのだが、上手いとか下手とか言う批判を寄せ付けない面白味がある。

Phantasmagoria / Curved Air

[title]
Phantasmagoria [ファンタスマゴリア -ある幻想的な風景-]
 3rd album
 released: 1972

[artist]
 Curved Air [カーヴド・エア]
 origin: London, England, U.K.

[comment]
 1曲目のタイトルが "Marie Antoinette (マリー・アントワネット)" であり、深い悲しみに満ちた6分を超える大作で、このバンドの世界観へ一気に引き込まれる。
 通常、Curved Airプログレッシヴ・ロックにカテゴライズされるバンドなのだが、彼ら彼女らの紡ぎだすヨーロピアン・ファンタジーな世界観を持つ音楽は多分にアート・ロック的でなので、アート・ロックと言ってしまっても差支えないだろう。
 Sonja Kristina の可愛らしい声と歌は素晴らしく、まだ女性ロック・シンガーが少なかったこの時代において、女性ロック・シンガーのロールモデルとなったのではないだろうか?
 当時17歳の天才 Eddie Jobson が参加した、次作 Air Cut も、今作に拮抗する名盤である。


D


E

Another Green World / Eno

[title]
Another Green World [アナザー・グリーン・ワールド]
 3rd album
 released: 1975

[artist]
 Eno [イーノ]
 origin: Melton, Suffolk, England, U.K.

[comment]
 筆者が Roxy Music の 1st と 2nd を聴いたときに持った Eno への感想は、「曲の中に奇天烈な音を放り込んでくる奇才のパフォーマー」ということだった。
 その後、Roxy を脱退した Eno の 1st と 2nd を聴いたときは、上述の Eno への感想とは、ちょっと違う感じであり、それほど奇才っぷりを感じることができず、殆ど印象に残らなかった。
 それから数年経って、この 3rd、Another Green World を購入したのだが、スピーカーから出てきた奥行きのある立体的に構築された音の重なりを聴いたときに「これだ!」と思ったのである。
 このアルバムは Eno が Roxy Music と完全に決別した作品であり、Eno の本当の意味でのスタート地点と呼べるアルバムでもある。


F G H I


J

Jobriath / Jobriath

[title]
Jobriath [謎のジョブライアス]
 1st album
 released: 1973

[artist]
 Jobriath [ジョブライアス]
 origin: King of Prussia, Pennsylvania, U.S.

[comment]
 この人はロックの歴史から葬り去られている感じだが、Gary Numan や The SmithsMorrissey といった、後のUKロックの結構な大物に影響を与えており、本来なら、もう少し尊敬されるべき人なのである。
 これは筆者の想像であり、全く裏付けは無いのだが、Marc Almond や Jimmy Somerville、 Sigue Sigue Sputnik の Martin Degville あたりも、この人から影響を受けているのではないだろうか。
 その音楽性は、演劇性の強いバロック・ポップという感じなのだが、それよりも何よりも、この人の個性を決定付けているのは曲や歌から放たれる強烈かキャンプ感である。
 このキャンプ感を敏感にキャッチしたのが彼の祖国である米国ではなく、英国のポストパンク/ニュー・ウェイヴ系のアーティストだったというのは当然のように思えてならない。


K L M N O P Q


R

Berlin / Lou Reed

[title]
Berlin [ベルリン]
 3rd album
 released: 1973

[artist]
Lou Reed [ルー・リード]
 origin: New York City, U.S.

[comment]
 実は Lou Reed のソロ・アルバムで好きなものは殆ど無いのだが、その理由は Lou Reed の歌が下手すぎて聴いていると辛くなるからだ。
 もちろん、歌唱力について言及するようなアーティストではないということは分かっているのだが、一念発起して聴き始めても直ぐについていけなくなる。
 ただ、この Berlin は例外的に大好きなアルバムであり、ある男と娼婦のキャロラインについて語られる退廃的な物語は、Lou Reed の歌が下手なことにより狂気のような凄みが加えられている。
 ちょっと気になるのは、The Velvet Underground の頃は上手くは無いが、そこそこ聴けるレベルであり、ソロになってからは、もう少し上手く歌えるのに、わざと下手に歌っているような気がしなくもない。

Siren / Roxy Music

[title]
Siren [サイレン]
 5th album
 released: 1975

[artist]
Roxy Music [ロキシー・ミュージック]
 origin: County Durham/London, England, U.K.

[comment]
Roxy Music は、その活動期間中にリリースした8枚のアルバム全てが名盤なのだが、Eddie Jobson が参加した 3rd から 5th が最もアート・ロックらしいのではないだろうか。
 上述のとおり、全てのアルバムが名盤なので、どれを選んでも良いのだが、久しぶりに 3rd から 5th を聴いてみたら、5th の Siren が最もバランスが良く、Bryan Ferry 以外のメンバーの貢献度も高いと感じたので、これを選んでみた。
 歩く靴音、車のドアが開く音、ベース、車のエンジン音と走り去るタイヤの音、ドラムとギターのカッティング、これらが次々に重ねられていく1曲目 "Love Is the Drug" の高揚感は凄まじく、このオープニングを聴くと鼓動の高まりを抑えられなくなる。
 そして、極めてアート・ロック的な前衛性を持ちながらも、後期 Roxy Musicソフト・ロック的な聴き易さも備えているのが凄い。


S

Dizrythmia / Split Enz

[title]
Dizrythmia [ディズリスミア]
 3rd album
 released: 1977

[artist]
 Split Enz [スプリット・エンズ]
 origin: Auckland, New Zealand

[comment]
 筆者に限らず、80年代から洋楽を聴き始めたロック・リスナーは、大ヒット曲 "Don't Dream It's Over" を放った Crowded House 経由で Split Enz を知った人が殆どなのではないだろうか?
 当時 Split Enz のレコードは、普通のレコード屋(十字屋みたいなお店)では見つからなかったので、仲良くしてもらっていた中古レコード屋の店主に探してもらい、けっこう難儀して手に入れたのが、このアルバムだった。
 最初に聴いたときは Crowded House のような分かりやすいポップな楽曲ではなく、ポップでありながら一捻りも二捻りもされており、ちょっと取っ付きにくかったのだが、非常に中毒性が高く、聴けば聴くほど止められなくなるのだ。
 2nd の Second Thoughts は、Roxy Music のギタリスト Phil Manzanera がプロデュースしており、こちらも名盤なのだが捻り度合いが高いので上級者向けである。


T U V


W

Scott 3 / Scott Walker

[title]
Scott 3 [スコット3]
 3rd album
 released: 1969

[artist]
 Scott Walker [スコット・ウォーカー]
 origin: Hamilton, Ohio, U.S.

[comment]
ScottScott 2 は Jacques Brel のカヴァーで幕を開け、且つ、要所要所に Brel のカヴァーが収められていた。
 しかし、この Scott 3 では 1曲目から10曲目までが Scott Walker のオリジナルで、アルバムのラスト3曲だけ、ひっそりと、まるでボーナス・トラックのように Brel のカヴァーが収められている。
ScottScott 2と比較すると、内省的な曲が大半を占める Scott 3 は地味に聴こえるかもしれないが、Scott Walker というアーティストの本質が本格的に開花したのが、この Scott 3 なのである。
 そして、Scott 4 では全曲オリジナルとなるのだが、これもまた名盤である。


X Y Z


~ 総括 ~

 今回取り上げたアーティストの何組かはグラム・ロックにカテゴライズされることもあるのだが、筆者にとっては分かりにくい感覚だ。

 筆者がグラム・ロックを感じるのは、Slade や Sweet のようなバブルガム・ポップなロックン・ロールや、T. Rex のようなブギー、Alice Cooper のようなショック・ロック、あるいは、New York Dolls のようなプリミティヴなロックン・ロールなのである(後のグラム・メタルに繋がる音楽だ)。

David BowieZiggy StardustRoxy MusicRoxy Music を聴いたとき、グラム・ロックらしさは全く感じなかった。

 今では、Bowie や Roxy のことをアート・ロックだと思っている。

 それにしても、最近はアート・ロックを聴く回数が、めっきり減ってしまった。

 最近、配信サービスアプリから選ぶアーティストはサザン・ロックが多い。

 加齢と共に、土の匂いのするアーシーな音が、一番楽に聴けるようになってきた。

 この先の人生で、どれくらいアート・ロックを聴くのかは不明だが、今回取り上げたアーティストが自分の人生に彩を与えてくれたことは確かなのである。

#0452) 好きなバラード(80年代・日本のロック・バンド)

Lovely Girl / G.D. Flickers

[曲名]
 Lovely Girl

[アーティスト名]
 G.D. Flickers [ジー・ディー・フリッカーズ]

[収録アルバム]
Some Girls


 2ndミニ・アルバム [リリース: 1987年]

[コメント]
 この曲は、作曲がギターの HARA、作詞が Y. YORIMOTO というバンド外の人であり、ヴォーカルの JOE は作詞していないのだが、JOE の無愛想な歌い方が絶妙に嵌っているバラードだ。
 ラヴ・ソングなのだが、この曲に登場する男は自分を愛してくれている女を受け入れることを躊躇っており、それは行くあてなく破滅に向かっている自分に女を巻き込んでしまうかもしれないからだ。
 このバンドは、とても不器用なところがあり、ヒットチャートの上位に送り込めるような曲を絶対に書かないのだが、この曲はそんなバンドのキャラにとても合っている。
 2023年も現役で活動している彼らには、この名曲を埋もれさせることなく、ぜひ現在のライヴでも演奏してほしいものである。


Party Is Over / Red Warriors

[曲名]
 Party Is Over

[アーティスト名]
Red Warriors [レッド・ウォーリアーズ]

[収録アルバム]
King's


 3rdアルバム [リリース: 1988年]

[コメント]
 この曲の歌詞は、ヴォーカルのダイアモンド☆ユカイが主演した日米合作映画『TOKYO-POP』、および、その主演女優だったCarrie Hamilton[キャリー・ハミルトン]との思い出をベースにして書かれている(ユカイの星は本当は六芒星だ)。
 ギターの木暮武彦Frank Sinatraフランク・シナトラ]を意識して書いた曲は、50年代のハリウッド映画のエンディングに流れそうなメロデイーが印象的であり、上述の歌詞と相まって、とてもロマンティックだ。
 別れを決めた男と女の最後の夜を歌った曲であり、「ユカイとキャリーの間には何かあったのかもしれない」と想像させられる。
 この曲のような「ベタな男女の物語」を歌った曲は、最近の日本のロックには無くなってしまったような気がする(筆者が知らないだけか?)。


Sing a Song / Shady Dolls

[曲名]
Sing a Song

[アーティスト名]
 Shady Dolls [シェイディ・ドールズ]

[収録アルバム]
Get The Black


 1stアルバム [リリース: 1987年]

[コメント]
 この曲はバラードではなく、スローなロックン・ロールなのかもしれない。
 デビュー・アルバムの1曲目なら、アップ・テンポで激しめの曲を持ってきた方が聴く人の心を掴みやすいと思うのだが、あえて、スローでグルーヴィーなこの曲で始めるというのは、このバンドの自信の表れなのだろう。
 このバンドはインディー・レーベルからのリリースが無いまま、いきなりメジャー・デビューしているのだが、当時の平均年齢が19歳だったというのが信じられないくらい、良い意味での「枯れた」演奏と歌が素晴らしい。
 パンクでもメタルでもない、こういう「明日のことさえ分からないオイラ」みたいなカッコ良いロックン・ロール・バンドって、今の日本にいるのだろうか?


Who's Gonna Win? / Tilt

[曲名]
 Who's Gonna Win?

[アーティスト名]
 Tilt [ティルト]

[収録アルバム]
Tilt Trick


 2ndアルバム(メジャー・デビュー・アルバム) [リリース: 1988年]

[コメント]
 このバンドは名古屋出身で、初期はプログレッシヴ・ロック・バンドだったのだが、メンバー・チェンジを繰り返すうちにロックン・ロール・バンドになった。
 今回取り上げた中では最も洋楽嗜好の強いバンドであり、その音楽性は70年代の Aerosmith と80年代のグラム・メタルをミックスした感じだ。
 この "Who's Gonna Win?" という曲は歌詞が英語であり、Aerosmith、Mötley Crüe、Bon Jovi あたりがカヴァーしても違和感を感じさせない非常にスケールの大きい大陸的なバラードである。
 聴いているときに思い浮かぶ風景は日本ではなくロサンゼルスであり、日本のラジオ局よりも、ロサンゼルスの KNAC の方が似合うバラードと言えば、どのようか曲かをイメージしてもらえるのではないだろうか?


Burnin' Love / Ziggy

[曲名]
 Burnin' Love

[アーティスト名]
Ziggy [ジギー]

[収録アルバム]
それゆけ! R&R Band


 1stミニ・アルバム [リリース: 1987年]

[コメント]
Ziggy がリリースした最初のアルバム(ミニ・アルバム)のラストを飾るバラードなのだが、初めて聴いたときはブッ飛んでしまった。
 当時それほど日本のロックを聴き込んでいなかった筆者にとって、Aerosmith の "You See Me Crying" や "Home Tonight"、Hanoi Rocks の "Don't You Ever Leave Me"、Mötley Crüe の "Home Sweet Home" に匹敵するクオリティーを持つバラードが、日本のインディー・レーベルのレコードからから流れてきたときの新鮮な驚きは今でも鮮明に記憶している。
 そして、それは、筆者が日本のロックに本格的に嵌り始めた瞬間でもあった。
 このミニ・アルバムの直ぐ後、Ziggyはメジャー・デビューするのだが、しばらくの間、このバンドのアルバムのラストはバラードが定番となる。

総括

 筆者がロックを聴き始めたのは1982年(中学1年)からなのだが、その頃は漠然と「ロックとは洋楽」であり「日本のロックなんて聴けるか!」という、今にして思うとアホみたいな拘りがあった。

 そんな筆者が、日本のロックを初めて「良いな」と思った瞬間は Red Warriors の "John" を聴いたときだ。

 先輩の車(スカイライン・ジャパン)に載せてもらっているときに、同級生のK君がカーステレオに入れたカセットテープが Red Warriors の 2ndアルバム Casino Drive であり、その B面の1曲目が "John" だったのである。

 つまり、K君のカセットテープの状態がB面に巻かれていたということなのだが、レコードやカセットテープはA面/B面という表裏を持つメディアであり、当時は必ずしも毎回A面から聴くということはなく、全部聴くつもりがA面だけ聴いて止めたり、あえてB面だけ聴いたり、B面だけ聴くつもりが続けてA面も聴いたりという具合に、変則的な聴き方も面白かった。

 その後、メディアが CD になってからは、聴きたい曲だけをチョイスして聴くことが多くなったような気がする。

 話が横道に逸れたが、とにかく、カーステレオから流れてきた Red Warriors の "John" に筆者は心惹かれたのである。

 そのときは曲名が "John" だということも知らず、レコード店に行って「これに入ってるんちゃうん?」と、あてずっぽうで買ったアルバムが 1stアルバムの Lesson 1 だったので "John" は入ってなかったのだが、結果的には Lesson 1 は素晴らしいアルバムだったので、筆者は Red Warriors を好きになったのである。

 結局のところ、筆者は、自分が日本人のくせに、日本のロックに対して差別的な意識や偏見を持っているという、最低最悪な、しょーもない人間だったのである(ちなみに、この「日本のロック」という言い方も嫌いなのだが、この言葉を使わずに文章を書く能力がないので妥協して使っている)。

 とにかく、自分の中にある、この意識に気付いたときは、本当に愕然としてしまい、悲しい気持ちになった。

 そもそもロックとは自由を標榜し、不当な偏見や差別に No という姿勢を持つ音楽であり、白とか黒とか黄色なんていうことに拘ることには何の意味もないということを教えてくれたロックを聴いていながら、筆者の中には上述した意識があったのだから、本当に「しょーもない人間」としか言いようがない。

 その後、K君とは、洋楽ロックを筆者からK君に、日本のロックをK君から筆者に、という具合にカセットテープを交換する仲になった(これはお金の面でとても助かった)。

 今回は、80年代の日本のロック・バンドの曲の中でも、特に好きなバラードを5曲取り上げたのだが、87年と88年の曲に集中しており、いずれもバッド・ボーイズ・ロックン・ロールというジャンルにカテゴライズ可能なバンドの曲である。

 何故こうなったのかは簡単に説明できる。

 87年は、米国で Guns N' Roses のデビュー・アルバム Appetite for Destruction がリリースされた年であり、そのインパクトが日本に上陸してバッド・ボーイズ・ロックン・ロールというムーヴメントが興った。

 当時、筆者が最も好きだった日本のロックが Guns N' Roses 等、米国の後期グラム・メタルの影響を受けたバッド・ボーイズ・ロックン・ロールであり、この手のバンドのレコードを買い漁っていたのだ。

 それにしても、今回この文章を書いていて思ったのは、バッド・ボーイズ・ロックン・ロールというジャンル名のカッコ悪さだ。

 誰が付けたのかは知らないが、もう少し、ましなジャンル名を付けることはできなかったのだろうか?