Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0456) 不遇だったが最高だったUKロックとアイリッシュ・ロック(90年代前期)

Adorable [アドラブル]

origin: Coventry, England, U.K.

[comment]
 何故かシューゲイズにカテゴライズされることのあるバンドだが、バンドのフロントマンである Piotr Fijalkowski (vo, gt) [ピョートル・フィヤルコフスキー] はシューゲイズを嫌っており、筆者もこのバンドはシューゲイズではないと思っている。
 Piotr のヴォーカルは「ささやき系」ではなく、エモーショナルに歌い上げるタイプなので、メロディー・ラインの設計がシューゲイズとは根本的に異なるのだ。
 1stシングルの "Sunshine Smile" がインディー・チャートで1位となり、英国のメディアやリスナーから注目を集めたものの、1stアルバム Against Perfection をリリースした頃にはメディアやリスナーから掌を返したように冷たくあしらわれた不遇のバンド。
 この時期の新人バンドは、The Stone Roses のフォロアー(マッドチェスター)か、My Bloody Valentine のフォロアー(シューゲイズ)でなければ受け入れて貰い難かったのだろうか?
Against Perfection は Echo & the Bunnymen や The House of Love の系譜を受け継ぐ、由緒正しいポストパンク/ニュー・ウェイヴの名盤だ。
 それ故「Ian McCulloch が歌う The House of Love」と揶揄されたりもしたが、Echo & the Bunnymen を敬愛し、バンド解散後は The House of Love の Terry Bickers (gt) と活動を共にする Piotr にとって、それは誉め言葉だ。
 2ndアルバム Fake も名盤であり、特にバンドのラスト・シングルにもなった "Vendetta" は Adorable というバンドの美学が凝縮された名曲である。

【1993】Against Perfection [アゲインスト・パーフェクション]
1st

【1994】Fake [フェイク]
2nd


Power of Dreams [パワー・オブ・ドリームス]

origin: Dublin, Ireland

[comment]
 このバンドのデビュー・アルバム Immigrants, Emigrants and Me には、10代のときにしか表現できないイノセンスが詰め込まれている。
 特に2ndシングルでもある "100 Ways to Kill a Love" を聴いたときは、普段ロックの歌詞を殆ど意識しない筆者なのだが、心に突き刺さってくるプリミティヴな言葉と美しいメロディーに瞬殺されてしまった。
 彼らは、というか、特にフロントマンの Craig Walker (vo, gt) は、母国アイルランドの英雄 U2 が大嫌いで、当時のインタビューでは「大丈夫かな」と心配になるくらいストレートに U2 を批判していた。
 相反して、隣国イギリスの The Smiths が大好きで、再結成後の復活アルバム Ausländer リリース時のインタビューでは「残りの人生で1曲だけ聴けるなら?」という質問に対して、"Some Girls Are Bigger Than Others" と答えるほど、Craig Walker の The Smiths に対する思い入れは深い。
 今、思えば、Power of Dreams は、ソングライティングも達者で、唯一無二の個性もあるのだが、色々な意味で世に出るのが早すぎたバンドだったような気がする。
 とは言え、矛盾しているが、下積みのドサ回りで擦れてしまった彼らを聴きたいとも思わない。
 特に、デビューから2ndアルバム 2 Hell with Common Sense までの彼らを聴いていると、もう二度と取り戻せない失ってしまった大切なものへの思いが蘇り、少し悲しい気分になる。

【1990】Immigrants, Emigrants and Me [イミグランツ・エミグランツ・アンド・ミー]
1st

【1992】2 Hell with Common Sense [トゥ・ヘル・ウィズ・コモン・センス]
2nd


The Seers [ザ・シアーズ]

origin: Bristol, United Kingdom, U.K.

[comment]
 UKロックという言葉からイメージする音楽は人それぞれだと思うのだが、ポストパンク/ニュー・ウェイヴからの影響が薄いロックは、UKロックの定義から外れるような印象がある。
 それ故、例えば The Dogs D'Amour、The Quireboys、The Wildhearts などを聴いているときは、UKロックを聴いているという意識が稀薄であり、それはこの The Seers についても同じである。
 The Seers は、彼らより少し前に登場した Zodiac Mindwarp & the Love Reaction や Crazyhead に近いワイルドなロックン・ロール・バンドなのだが、僅かではあるがUKロックぽっさがあるのが面白い。
 デビュー・アルバムの Psych Out は掛け値なしでロックン・ロールの歴史に残る名盤であり、1曲目 "Wild Man" の短めで妖しげなアコギから始まり、突然爆発する展開は、Hanoi Rocks の名盤 Back to Mystery City を思い出させる。
 このバンドの知名度は、The Stooges、New York DollsRamonesBuzzcocks あたりのレジェンドと比較すると圧倒的に低いのだが、楽曲の水準は互角だ。
 しかし、この時代は、バギー・パンツを履いてマラカスを振って踊り狂うか、俯きながら陰鬱なギターを轟音で掻き鳴らかの、いずれかがトレンドであり、ストレートなロックン・ロール・バンドには分が悪かった。
 2nd の Peace Crazies はロックン・ロール色が後退し、サイケデリックになったのだが、これはこれで捨てがたい魅力のある名盤だ。

【1990】Psych Out [サイケ・アウト]
1st

【1992】Peace Crazies [ピース・クレイジーズ]
2nd


~ 総括 ~

 今回取り上げたバンドは、全て1990年代前半に登場したUKバンドとアイリッシュ・バンドなのだが、非常にクオリティーの高い作品をリリースしながらも、時代の流れに翻弄され、消えていったバンドだ。

 同時代における、筆者にとっての2代巨頭は SuedeManic Street Preachers、そこに2組加えて四天王にするなら Teenage Fanclub と The Divine Comedy が入る。

 今回取り上げた、Adorable、Power of Dreams、The Seers は、上述した筆者にとっての四天王と比較すると、商業的には大きな成功を収めていないと思うのだが、筆者にとっては四天王と同じくらい大切なバンドだ。

 他にも取り上げたいバンドが何組もあるのだが、一度に多くのバンドを取り上げてしまうと焦点がぼやけてしまいそうなので、厳選して特にお気に入りのバンドを3組だけ選んだ。

 いずれまた、同じタイトルで第二弾を書きたいと思う。