A
B
■ Axe Victim / Be-Bop Deluxe
[title]
Axe Victim [美しき生贄]
1st album
released: 1974
[artist]
Be-Bop Deluxe [ビー・バップ・デラックス]
origin: Wakefield, West Yorkshire, England, U.K.
[comment]
Be-Bop Deluxe というバンドのデビュー・アルバムなのだが、聴いていると Bill Nelson というギタリストのソロ・アルバムなのではないかという気がしてくる。
とにかく、全編にわたりギターを弾きまくっており、Bill Nelson は声に癖が無いので歌よりもギターの方が圧倒的に耳に残るアルバムであり、ヴォーカル・トラックを外してしまっても十分に成立するのではないだろうか?
Bill Nelson は、David Bowie や Bryan Ferry (Roxy Music) の次にあたる世代なのだが、どの分野でも第2世代には優等生が多く、破天荒な魅力は薄いのだが全体を纏めるのが上手い。
デビュー・アルバムのクオリティーの高さという意味では、Bowie や Ferry を超えている。
■ The Man Who Sold the World / David Bowie
[title]
The Man Who Sold the World [世界を売った男]
3rd album
released: 1970
[artist]
David Bowie [デヴィッド・ボウイ]
origin: London, England, U.K.
[comment]
個人的には、Bowie のアルバムの中では Ziggy Stardust より前(つまり、Hunky Dory以前)のアルバムがアート・ロック的だと感じており、その中でも The Man Who Sold the World が特に好きだ。
初期の Bowie のアルバムでは最もハードかつヘヴィなアルバムであり、異色作でもある。
このアルバムには3種類のアルバム・カヴァーがあるのだが、元々 "Metrobolist" というタイトルでリリースしようとしているときに用意していたアルバム・カヴァーが上の画像であり、筆者もこのアルバム・カヴァーが一番好きだ。
こちらに視線を向けている男の顔が不敵不敵しく、いかにも世界を売りそうな、とんでもないことをやらかしそうな顔である。
C
■ The Human Menagerie / Cockney Rebel
[title]
The Human Menagerie [美しき野獣の群れ]
1st album
released: 1973
[artist]
Cockney Rebel [コックニー・レベル]
origin: King of Prussia, Pennsylvania, U.S.
[comment]
日本の The Yellow Monkey のデビュー・アルバムを聴いたとき「なんか Cockney Rebel っぽい」と思ったのだが、後に吉井和哉が Cockney Rebel をフェイヴァリットに挙げているのを見て得心した。
Cockney Rebel は Bowie や Roxy と近い位置に居ながら良い意味で下世話な感じの場末感があり、80~90年代のバンドで例えるなら、Suede や Blur ではなく Pulp なのである。
William Shakespeare (ウィリアム・シェイクスピア) を生んだ国ということに関係があるのかないのか分からいのだが、英国のアート・ロックは演劇からの影響が強いような気がする。
Steve Harley のヘナヘナの歌は全くもってロック向きではないのだが、上手いとか下手とか言う批判を寄せ付けない面白味がある。
■ Phantasmagoria / Curved Air
[title]
Phantasmagoria [ファンタスマゴリア -ある幻想的な風景-]
3rd album
released: 1972
[artist]
Curved Air [カーヴド・エア]
origin: London, England, U.K.
[comment]
1曲目のタイトルが "Marie Antoinette (マリー・アントワネット)" であり、深い悲しみに満ちた6分を超える大作で、このバンドの世界観へ一気に引き込まれる。
通常、Curved Air はプログレッシヴ・ロックにカテゴライズされるバンドなのだが、彼ら彼女らの紡ぎだすヨーロピアン・ファンタジーな世界観を持つ音楽は多分にアート・ロック的でなので、アート・ロックと言ってしまっても差支えないだろう。
Sonja Kristina の可愛らしい声と歌は素晴らしく、まだ女性ロック・シンガーが少なかったこの時代において、女性ロック・シンガーのロールモデルとなったのではないだろうか?
当時17歳の天才 Eddie Jobson が参加した、次作 Air Cut も、今作に拮抗する名盤である。
D
E
■ Another Green World / Eno
[title]
Another Green World [アナザー・グリーン・ワールド]
3rd album
released: 1975
[artist]
Eno [イーノ]
origin: Melton, Suffolk, England, U.K.
[comment]
筆者が Roxy Music の 1st と 2nd を聴いたときに持った Eno への感想は、「曲の中に奇天烈な音を放り込んでくる奇才のパフォーマー」ということだった。
その後、Roxy を脱退した Eno の 1st と 2nd を聴いたときは、上述の Eno への感想とは、ちょっと違う感じであり、それほど奇才っぷりを感じることができず、殆ど印象に残らなかった。
それから数年経って、この 3rd、Another Green World を購入したのだが、スピーカーから出てきた奥行きのある立体的に構築された音の重なりを聴いたときに「これだ!」と思ったのである。
このアルバムは Eno が Roxy Music と完全に決別した作品であり、Eno の本当の意味でのスタート地点と呼べるアルバムでもある。
F G H I
J
■ Jobriath / Jobriath
[title]
Jobriath [謎のジョブライアス]
1st album
released: 1973
[artist]
Jobriath [ジョブライアス]
origin: King of Prussia, Pennsylvania, U.S.
[comment]
この人はロックの歴史から葬り去られている感じだが、Gary Numan や The Smiths の Morrissey といった、後のUKロックの結構な大物に影響を与えており、本来なら、もう少し尊敬されるべき人なのである。
これは筆者の想像であり、全く裏付けは無いのだが、Marc Almond や Jimmy Somerville、 Sigue Sigue Sputnik の Martin Degville あたりも、この人から影響を受けているのではないだろうか。
その音楽性は、演劇性の強いバロック・ポップという感じなのだが、それよりも何よりも、この人の個性を決定付けているのは曲や歌から放たれる強烈かキャンプ感である。
このキャンプ感を敏感にキャッチしたのが彼の祖国である米国ではなく、英国のポストパンク/ニュー・ウェイヴ系のアーティストだったというのは当然のように思えてならない。
K L M N O P Q
R
■ Berlin / Lou Reed
[title]
Berlin [ベルリン]
3rd album
released: 1973
[artist]
Lou Reed [ルー・リード]
origin: New York City, U.S.
[comment]
実は Lou Reed のソロ・アルバムで好きなものは殆ど無いのだが、その理由は Lou Reed の歌が下手すぎて聴いていると辛くなるからだ。
もちろん、歌唱力について言及するようなアーティストではないということは分かっているのだが、一念発起して聴き始めても直ぐについていけなくなる。
ただ、この Berlin は例外的に大好きなアルバムであり、ある男と娼婦のキャロラインについて語られる退廃的な物語は、Lou Reed の歌が下手なことにより狂気のような凄みが加えられている。
ちょっと気になるのは、The Velvet Underground の頃は上手くは無いが、そこそこ聴けるレベルであり、ソロになってからは、もう少し上手く歌えるのに、わざと下手に歌っているような気がしなくもない。
■ Siren / Roxy Music
[title]
Siren [サイレン]
5th album
released: 1975
[artist]
Roxy Music [ロキシー・ミュージック]
origin: County Durham/London, England, U.K.
[comment]
Roxy Music は、その活動期間中にリリースした8枚のアルバム全てが名盤なのだが、Eddie Jobson が参加した 3rd から 5th が最もアート・ロックらしいのではないだろうか。
上述のとおり、全てのアルバムが名盤なので、どれを選んでも良いのだが、久しぶりに 3rd から 5th を聴いてみたら、5th の Siren が最もバランスが良く、Bryan Ferry 以外のメンバーの貢献度も高いと感じたので、これを選んでみた。
歩く靴音、車のドアが開く音、ベース、車のエンジン音と走り去るタイヤの音、ドラムとギターのカッティング、これらが次々に重ねられていく1曲目 "Love Is the Drug" の高揚感は凄まじく、このオープニングを聴くと鼓動の高まりを抑えられなくなる。
そして、極めてアート・ロック的な前衛性を持ちながらも、後期 Roxy Music のソフト・ロック的な聴き易さも備えているのが凄い。
S
■ Dizrythmia / Split Enz
[title]
Dizrythmia [ディズリスミア]
3rd album
released: 1977
[artist]
Split Enz [スプリット・エンズ]
origin: Auckland, New Zealand
[comment]
筆者に限らず、80年代から洋楽を聴き始めたロック・リスナーは、大ヒット曲 "Don't Dream It's Over" を放った Crowded House 経由で Split Enz を知った人が殆どなのではないだろうか?
当時 Split Enz のレコードは、普通のレコード屋(十字屋みたいなお店)では見つからなかったので、仲良くしてもらっていた中古レコード屋の店主に探してもらい、けっこう難儀して手に入れたのが、このアルバムだった。
最初に聴いたときは Crowded House のような分かりやすいポップな楽曲ではなく、ポップでありながら一捻りも二捻りもされており、ちょっと取っ付きにくかったのだが、非常に中毒性が高く、聴けば聴くほど止められなくなるのだ。
2nd の Second Thoughts は、Roxy Music のギタリスト Phil Manzanera がプロデュースしており、こちらも名盤なのだが捻り度合いが高いので上級者向けである。
T U V
W
■ Scott 3 / Scott Walker
[title]
Scott 3 [スコット3]
3rd album
released: 1969
[artist]
Scott Walker [スコット・ウォーカー]
origin: Hamilton, Ohio, U.S.
[comment]
Scott と Scott 2 は Jacques Brel のカヴァーで幕を開け、且つ、要所要所に Brel のカヴァーが収められていた。
しかし、この Scott 3 では 1曲目から10曲目までが Scott Walker のオリジナルで、アルバムのラスト3曲だけ、ひっそりと、まるでボーナス・トラックのように Brel のカヴァーが収められている。
Scott、Scott 2と比較すると、内省的な曲が大半を占める Scott 3 は地味に聴こえるかもしれないが、Scott Walker というアーティストの本質が本格的に開花したのが、この Scott 3 なのである。
そして、Scott 4 では全曲オリジナルとなるのだが、これもまた名盤である。
X Y Z
~ 総括 ~
今回取り上げたアーティストの何組かはグラム・ロックにカテゴライズされることもあるのだが、筆者にとっては分かりにくい感覚だ。
筆者がグラム・ロックを感じるのは、Slade や Sweet のようなバブルガム・ポップなロックン・ロールや、T. Rex のようなブギー、Alice Cooper のようなショック・ロック、あるいは、New York Dolls のようなプリミティヴなロックン・ロールなのである(後のグラム・メタルに繋がる音楽だ)。
David Bowie の Ziggy Stardust や Roxy Music の Roxy Music を聴いたとき、グラム・ロックらしさは全く感じなかった。
今では、Bowie や Roxy のことをアート・ロックだと思っている。
それにしても、最近はアート・ロックを聴く回数が、めっきり減ってしまった。
最近、配信サービスアプリから選ぶアーティストはサザン・ロックが多い。
加齢と共に、土の匂いのするアーシーな音が、一番楽に聴けるようになってきた。
この先の人生で、どれくらいアート・ロックを聴くのかは不明だが、今回取り上げたアーティストが自分の人生に彩を与えてくれたことは確かなのである。