筆者が、初めてロックだと意識して買ったレコードはJAPAN〔ジャパン〕の「QUIET LIFE」だった。
そして、初めてヘヴィ・メタルだと意識して買ったレコード、これに関しては記憶が曖昧なのだが、たぶん、W.A.S.P. 〔ワスプ〕の1stアルバム「W.A.S.P.」だったような気かする。
もう一つ候補として思う浮かぶのがRATT〔ラット〕の1stアルバム「OUT OF THE CELLAR」なのだが、両方とも1984年のリリースなので、どちらを先に買っていたとしても、筆者がヘヴィ・メタルというジャンルの音楽を本格的に聴くようになった時期が1984年だったのは間違いないはずである。
ヘヴィ・メタル専門誌「BURRN!」の創刊も1984年なので、洋楽市場ではこの頃からメタル・バブルが始まったのかもしれない。
今回取り上げるのはW.A.S.P.の1stアルバム「W.A.S.P.」なのだが、このバンド、そして、このアルバムは極めて解り易いヘヴィ・メタルだった。
当時、このアルバムの日本盤に付けられていた邦題は「魔人伝」である。
いかにもヘヴィ・メタルのアルバム・タイトルという感じのするネーミングだ。
原題の「W.A.S.P.」とは全く関係の無い邦題の付け方だが、当時はこういうイメージ先行型の邦題がけっこう多かった。
「魔人伝」というタイトルを聴くと、おどろおどろしい音を想像してしまうが、実際にはそのような感触は無く、アルバム一枚を通して驚くほどキャッチーでメロディアスな音が鳴らされており、超絶ヘヴィな音を期待して聴くと、ちょっと拍子抜けするくらいである。
このアルバムの音を乱暴に言い切ってしまうなら、JUDAS PRIEST〔ジューダス・プリースト〕 + KISS〔キッス〕なのである。
そこにALICE COOPER〔アリス・クーパー〕からの影響を取り入れたショック・ロック的なヴィジュアル・イメージとステージ・パフォーマンスが付随する。
もちろん、W.A.S.P.独自の個性もある。
それは、Blackie Lawless〔ブラッキー・ローレス〕のヒステリックでダーティなヴォーカルであったり、色物と言っても差し支えないくらいのバンド・メンバーたちの下品な振る舞いであったりするのだが、このバンド、というよりBlackie Lawlessという人は、これら全てを完璧に計算し尽くしてやっている極めてクレヴァ―な人物なのである。
Blackie Lawlessは、Johnny Thunders〔ジョニー・サンダース〕が脱退した後のNEW YORK DOLLS〔ニューヨーク・ドールズ〕に参加したり、CIRCUS CIRCUS 〔サーカス・サーカス〕というバンドをやっていたりという具合に、W.A.S.P.結成前の1970年代からキャリアを積んだミュージシャンであり、W.A.S.P.でデビューした時には既に28歳である。
おそらく、ショー・ビジネスの裏側や、からくりを知っており、どうすればW.A.S.P.が注目されるのかを分かっていたのだろう。
所属レーベルのキャピトルに拒否されたため、このアルバムには収録されなかったのだが、彼らの1stシングルのタイトルが"Animal (Fuck Like A Beast)"である。
キャピトルが拒否するのも当然のタイトルだ。
結局、この曲はキャピトルからではなく、インディー・レーベルからのリリースとなった。
しかし、これすらも、キャピトルから拒否されることを分かった上で逆手にとり、それを上手い具合に宣伝として使ったのではないかと思えて仕方がない。