Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0306) DON'T CALL ME BUCKWHEAT / Garland Jeffreys 【1992年リリース】

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Garland Jeffreys〔ガーランド・ジェフリーズ〕のことを不意に思い出し、今回取り上げている「DON'T CALL ME BUCKWHEAT」を聴いてみた。


このアルバムの情報をWikipediaで調べてみたところ、1992年の作品であり、8thアルバムだ。


Garland Jeffreysの情報もWikipediaで調べてみたところ、1943年生れなので、このアルバムをリリースした頃には既に49歳になっている。


1943年生れというと、THE BEATLESザ・ビートルズ〕のGeorge Harrisonジョージ・ハリスン〕、THE ROLLING STONESザ・ローリング・ストーンズ〕のKeith Richards〔キース・リチャーズ〕やMick Jaggerミック・ジャガー〕と同い年だ。


Garland Jeffreysが最初のアルバム「GRINDER'S SWITCH FEATURING GARLAND JEFFREYS」をリリースしたのは1970年、この時の年齢は27歳なので、なかなかの遅咲きだ。


今回取り上げている「DON'T CALL ME BUCKWHEAT」は、前作「GUTS FOR LOVE」から実の9年ぶりのリリースとなったアルバムだ。


当時の筆者はGarland Jeffreysのことを全く知らなかったのだが、毎月購入していた洋楽雑誌で高評価を得ていたのでリリースとほぼ同時に日本盤を購入している。


雑誌という音の出ないメディアに書かれている文章だけを信じて、CDという音の出るメディアを買っていたわけだが、今にして思うとリスクの高いことをしていたなと思う。


しかし、今のようにインターネットで簡単に音源を聴ける時代ではなかったので、こういうCDの買い方が当たり前だったのである。


一か八かのような買い方をしたアルバムだが、その年に最もよく聴いた一枚となった。


レゲエとR&Bの影響を受けたロックなのだが、全体的にはレゲエの要素が強い。


しかし、本場ジャマイカのレゲエのようなコテコテに濃い感じではなく、そこはニューヨーク・ブルックリン出身のアーティストだからか、かなり都会的な音に仕上げられている。


音の感触としては、英国のレゲエ・バンドASWAD〔アスワド〕や、レゲエやスカから影響を受けた英国のポストパンク・バンド(所謂2トーンと言われるバンド)THE BEAT〔ザ・ビート〕に近い。


このアルバム以降、全く追いかけていなかったのだが2017年に「14 STEPS TO HARLEM」という2020年4月現在での最新作をリリースしているので、この機会に聴いてみようと思う。

 

#0305) SMOKIN' / HUMBLE PIE 【1972年リリース】

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3大ギタリストと言えば、その名を書く必要もないが、3大ヴォーカリストというのは存在するのだろうか?


筆者にとっての3大ヴォーカリストと言えば、SMALL FACES〔スモール・フェイセス〕~HUMBLE PIE〔ハンブル・パイ〕のSteve Marriott〔スティーヴ・マリオット〕、FREE〔フリー〕~BAD COMPANY〔バッド・カンパニー〕のPaul Rodgers〔ポール・ロジャース〕、THE JEFF BECK GROUP〔ザ・ジェフ・ベック・グループ〕~FACES〔フェイセス〕のRod Stewart〔ロッド・スチュワート〕だ。


過去の記事にも書いたことだが、Steve Marriottはド迫力の上手さ、Paul Rodgersは安定の上手さ、Rod Stewartは問答無用の上手さ、というのが筆者のこの3人に対する見解である。


もちろん、この3人と同じくらい好きなヴォーカリストは他に何人もいるのだが、結局のところ、筆者にとってはこの3人が最高のヴォーカリストなのである。


それでは、この3人の中で最も好きなのは誰なのかと問われた場合、これに答えるのはかなり難しいのだが、どうしても選ばなければならないのであればSteve Marriottと答えるだろう。


Steve Marriottを好きになった切っ掛けは、今回取り上げているHUMBLE PIEの5thアルバム「SMOKIN'」だ。


このアルバムで聴けるR&Bをルーツに持つSteve Marriottのソウルフルなヴォーカルは、ちょっと簡単に説明するのが困難なほど素晴らしい。


スタジオ・アルバムなのだが、ライヴ・アルバムのような臨場感があり、スピーカーから聴こえてくるSteve Marriottのヴォーカルは、目の前で彼が歌っているかのような迫力がある。


当然、最近のテクノロジーを駆使して録音された音源とは比較ならないほど貧弱な音なのだが、そんなことが全く気にならないほどSteve Marriottのヴォーカルが強力なのである。


Steve Marriottは業界内での人気も高く、LED ZEPPELINレッド・ツェッペリン〕のJimmy Pageジミー・ペイジ〕もSteve Marriottがお気に入りらしい。


Robert Plantロバート・プラント〕がJimmy Page & Robert Plant名義で「NO QUARTER」をリリースした際、何かの雑誌のインタビューで「Jimmy Page翁のお気に入りのヴォーカリストはSteve Marriottだから」と皮肉っぽく言っていたのが面白かった。


その記事を読んだ時に感じたのは、Robert Plantのような超絶的なヴォーカリストと一緒にバンドをやっていたJimmy Pageにまで、お気に入りと言わせてしまうSteve Marriottというヴォーカリストの凄さだったのである。

 

#0304) SULK / THE ASSOCIATES 【1982年リリース】

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筆者が中学生の頃、「ROCK IN JAPAN 1985」というライヴが横浜スタジアムで開催された。


これは小規模なロック・フェスティヴァルのようなもので、出演アーティストはヘッドライナーから順にCULTURE CLUBカルチャー・クラブ〕、THE STYLE COUNCIL〔ザ・スタイル・カウンシル〕、GO WEST〔ゴー・ウエスト〕、THE ASSOCIATES〔ジ・アソシエイツ〕というラインナップだ。


当時の筆者はCULTURE CLUBTHE STYLE COUNCILが大好きで、GO WESTは洋楽雑誌がプッシュしていた期待の新人デュオだったので、このライヴを観に行きたかったのだが、中学生だった筆者にとって、地元の京都から横浜まではあまりにも遠すぎるため、結局観に行くことは叶わなかった。


それにしても、このラインナップの中で気になったのはTHE ASSOCIATESだ。


このラインナップを見た時、THE ASSOCIATESだけは「誰?」とうのが偽らざる感想だった。


そして、このライヴが終わり、少し経ってから洋楽雑誌にライヴ評が載ったのだが、CULTURE CLUBTHE STYLE COUNCILは掲載されている写真も多く好意的な文章が書かれており、GO WESTにもそこそこの写真と良い感じの文章があった。


しかし、THE ASSOCIATESだけは写真も小さく、文章も正確には憶えていないが「アソシエイツも頑張った」という感じの雑な扱いを受けており、知らないアーティストではあるが、何とも言えない悲しい気分になった記憶がある。


それ以来、THE ASSOCIATESのことは忘れていたのだが、その後かなりの時間が経過して、このアーティストのことを思い出したのは今回取り上げている2ndアルバムの「SULK」が洋楽雑誌で大絶賛されている記事を読んだ時だ。


数年前、無性にこのアルバムが聴いてみたくなり、「SULK」(のデラックス盤)を購入して聴いたのだが、あらゆるパーツを完璧に組み上げた作品としての構築美に鳥肌が立った。


高音域を自在に操って歌うBilly Mackenzie〔ビリー・マッケンジー〕と、マルチ・インストゥルメンタリストのAlan Rankine〔アラン・ランキン〕が構築する楽曲の融合は、この時代のシンセポップの中では飛び抜けて個性的だ。


無理やり近いと思うアーティストを挙げるならSOFT CELL〔ソフト・セル〕なのかもしれないが、THE ASSOCIATESにはSOFT CELLのような良い意味での下世話なキャバレー的な感触は無い。


残念なことにBilly Mackenzieは1997年に自ら命を絶ってしまうのだが、これはポップ・ミュージックにとってあまりにも大きな損失だった。

 

#0303) HOW WILL I LAUGH TOMORROW WHEN I CAN'T EVEN SMILE TODAY / SUICIDAL TENDENCIES 【1988年リリース】

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SUICIDAL TENDENCIES〔スイサイダル・テンデンシーズ〕とは物騒なバンド名を付けたものである。


これは「自殺の傾向」と訳すのだろうか?


そして今回取り上げている3rdアルバムのタイトルが「HOW WILL I LAUGH TOMORROW WHEN I CAN'T EVEN SMILE TODAY」だ。


これは「今日も笑えないという時に、どうやって明日を笑うんだ」と訳すのだろうか?


何とも厭世的で暗澹たる気分にさせられるバンド名とアルバム・タイトルだ。


このアルバムがリリースされた1988年はアフガニスタン紛争(1978年~1989年)やイラン・イラク戦争(1980年~1988年)といった長期に渡る紛争・戦争の時期と重なる。


それ故、こんなバンド名やアルバム・タイトルがあっても不思議ではないのかもしれない。


このアルバムがリリースされた1988年の日本はバブル経済による好景気の真っただ中だ。


日本中が浮かれまくっていた時代であり、筆者の地元の京都でも祇園などの花街が今とは比較にならないほど華やいでいた記憶がある。


そんな筆者もバブル期を代表するようなノー天気でアホ丸出しの学生だったわけだが、この物騒で厭世的なSUICIDAL TENDENCIESの3rdアルバム「HOW WILL I LAUGH TOMORROW WHEN I CAN'T EVEN SMILE TODAY」には何故か強烈に魅かれ、お気に入りの一枚だった。


このアルバムを切っ掛けにして、SUICIDAL TENDENCIESの1stアルバム「SUICIDAL TENDENCIES」、2ndアルバム「JOIN THE ARMY」も遡って聴くことになったのだが、1stと2ndはハードコア・パンク色が強く、3rdからはスラッシュ・メタル色が強くなった。


更にオーセンティックなヘヴィ・メタルからの影響も加えられており、ヴォーカルがかなりメロディアスになっている。


そして何より、このアルバムを特徴付けているのは2ndから参加したギタリスト、Rocky George〔ロッキー・ジョージ〕がアイバニーズRGから繰り出すメタリックなリード・ギターだ。


Rocky George が加入した2ndの時点でもメタル的な色彩が強まっていたのだが、3rdからはそれが完全に前面に出た形となっている。


このアルバムはMETALLICAメタリカ〕の「...AND JUSTICE FOR ALL」と同じ1988年のリリースなのだが、期待して買った「...AND~」の方は意外にもあまり入り込むことができず、実は気まぐれで買ったこのアルバムが筆者にとっては大物のMETALLICAを超える一枚になったのである。

 

#0302) PARADISE THEATRE / STYX 【1981年リリース】

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今回取り上げているSTYX〔スティクス〕は、KANSAS〔カンサス〕、BOSTON〔ボストン〕、JOURNEY〔ジャーニー〕等と並ぶアメリカン・プログレ・ハードの大御所バンドだ。


アメリカン・プログレ・ハードにカテゴライズされるバンドは、1970年代後半から1980年代にかけて極めて多くのレコードを売ったため、産業ロックと揶揄されることがある。


しかし、産業ロックとは論理的に破綻しているネーミングではないだろうか?


果たして産業ロックではないロックなど実際に存在するのだろうか?


ロックという音楽を制作し、それを流通・販売させることにより報酬を得ているのであれば、全てのロックは産業ロックだ。


所属しているレーベルがメジャーではなく、インディーであったとしても、それは同じであり、プロのロック・ミュージシャンである以上、音楽産業の一部なのである。


さて、STYXだが、今回取り上げたアルバムは10thアルバムの「PARADISE THEATRE」である。


STYXはこのアルバムで全米1位を獲得し、4作連続のトリプル・プラチナムも獲得している。


筆者は1980年代初期からロックを聴き始めた世代なのだがSTYXの全盛期とは微妙に重なることがなく、STYXよりも先にTommy Shaw〔トミー・ショウ〕のソロ・アルバムを聴き、彼が参加したDAMN YANKEES〔ダム・ヤンキース〕を聴き、その後、ようやくSTYXに辿り着いた。


そして、最初に聴いたSTYXのアルバムが今回取り上げている「PARADISE THEATRE」なのである。


有名なアルバムなので、その存在は知っていたのだが、このアルバムを聴いたのは1980年代の後半になってからだ。


このアルバムを一言で表現するなら「華麗なるコンセプト・アルバム」であり、彼らの出身地であるシカゴに実在する映画館「パラダイス・シアター」を舞台にした物語を1枚のアルバムの中で描いている。


そのメロディの美しさと言い、アレンジの巧みさと言い、STYXというバンドの音楽的技量の高さ、メンバーの作曲能力の高さが遺憾なく発揮された作品だ。


そして才能豊かなメンバーのパワー・バランスがギリギリで保たれている作品であり、次作以降、徐々崩壊し始めるメンバー関係の危うさを幽かに感じさせる一枚でもある。