今回もブログ・タイトルの「ロックン・ロール・プリズナーの憂鬱」とは、だいぶかけ離れた作品を取り上げてしまっている。
Chick Corea〔チック・コリア〕のソロ名義でのリリースだが、実質的にはChick Corea(electric piano)、Stanley Clarke〔スタンリー・クラーク〕(bass)、Joe Farrell〔ジョー・ファレル〕(flute, soprano saxophone)、Airto Moreira〔アイアート・モレイラ〕(drums, percussion)、〔フローラ・プリム〕(vocals, percussion)で構成されるジャズ・フュージョン・バンドRETURN TO FOREVER(第1期)の1stアルバムだ。
筆者の場合、ジャズが絡むと必ず出てくるのが、ある地方都市に長期出張していた頃に出入りしていたジャズ喫茶だ(実際にはジャズ・バーだったが何故かマスターはジャズ喫茶という呼称に拘っていた)。
このアルバムも、そのジャズ喫茶のマスターにレコードを聴かせてもらった一枚である。
ジャズ・フュージョンというものを聴いたのは、この時が初めてだったのだが、それまでにマスターから教えてもらって聴いていたビバップやモダン・ジャズとは、あまりにも異なるテイストが新鮮で、自分でCDを購入した初めてのジャズ・フュージョンのアルバムだ。
それまでにマスターから聴かせてもらっていたジャズから連想するイメージは、「アルコールの匂い」、「タバコの煙」等、どちらかと言えば不健康なものが多かった。
しかし、このアルバムからはジャケットに写る「風を切って海の上を飛ぶカモメ」そのものの清々しさが感じられ、アルコールが苦手な筆者がソフトドリンクを飲みながら聴けるような、そんなアルバムなのである。
今でこそ、エレクトリック・ピアノ(電気ピアノ)という楽器の音色の美しさが理解できるようになった筆者だが、このアルバムを聴くまでは、エレクトリック・ピアノという楽器に魅力を感じたことはなく、「ピアノ言うたら生ピアノに決まっているやん」という偏見を持っていた。
ロックやブルースを聴いている時はエレクトリック・ギターもアコースティック・ギターも喜んで聴くくせに、ピアノに関しては生ピアノ至上主義だなんて勝手なものである。
ただし、Chick Corea自身も御大Miles Davis〔マイルス・デイヴィス〕のバンドに加入した時に半ば無理やりエレクトリック・ピアノを弾かされていたらしいのだが、それが後にこの「RETURN TO FOREVER」のようなジャズ・フュージョンの金字塔とも言える傑作に繋がるのだから分からないものである。