Fats Domino〔ファッツ・ドミノ〕は、Chuck Berry〔チャック・ベリー〕、Little Richard〔リトル・リチャード〕、Bo Diddley〔ボ・ディドリー〕と並ぶロックン・ロールの始祖だ。
そして、ロックン・ロール・ピアニストとしては、Fats Dominoが最初なのではないだろうか?
同じくロックン・ロール・ピアニストであるLittle Richardの1stシングル"Taxi Blues"のリリースは1951年、Fats Dominoの1stシングル"Detroit City Blues"のリリースは1950年であり、Fats Dominoの方が1年ほど早い。
今ではロックン・ロールを象徴する楽器と言えばギターということになっているが、ロックン・ロールの黎明期においてはピアノもロックン・ロールを象徴する楽器だったはずだ。
ギターもピアノも共にフロントとリズム・セクションの両方を出来る楽器という点では共通しているのだが、ツアーにおける持ち運びのし易さから徐々にギターに軍配が上がっていったのではないだろうか。
今回、Fats Dominoを取り上げるにあたり、どのアルバムを取り上げるか非常に迷った。
そもそも、筆者が持っているFats Dominoのアルバムは「WALKING TO NEW ORLEANS」という30曲入りのグレイテスト・ヒッツ・アルバムであり、オリジナルのスタジオ・アルバムは聴いたことがない。
この時代のアーティストがどれほどアルバムというフォーマットに拘りを持っていたのか分からないのだが、筆者の中ではアルバムという単位で音源を楽しむのはTHE BEATLES〔ザ・ビートルズ〕以降のような認識が薄ぼんやりとある。
Fats Dominoのディスコグラフィをインターネット百科事典で調べたところ、「ROCK AND ROLLIN' WITH FATS DOMINO」が彼の1stアルバムであり、Amazon Music Unlimitedでも聴くことが出来るのでこれを取り上げることにした。
アルバム・タイトルに「ROCK AND ROLL」という言葉が入っているのも良い。
今回初めてこのアルバムを聴いたのだが、グレイテスト・ヒッツ・アルバムにも収録され、彼の最初の大ヒット曲であるお馴染みの"The Fat Man"で始まるので、何となく初めて聴いたアルバムのような気がしない。
この人の曲の特徴は、そのポッチャリとしたふくよか体形を象徴するかのような大らかな雰囲気である。
ヒリヒリとした緊張感というものが無く、極端な言い方をすれば、一日中聴いていても疲れないような安定感があるのだ。
ヴォーカルにも温かみがあり、聴いていて安心できる。
アルバム・タイトルに「ROCK AND ROLL」と入ってはいるが、ブルージーなピアノの弾き語りで歌われる曲の数々は、ブルースやR&Bとロックン・ロールの橋渡しのような感触がある。
ロックン・ロールとは、正にブルースの子供なのだ。
そもそもロックン・ロールとは、今回取り上げたFats DominoやChuck Berry、Little Richard、Bo Diddley等、黒人によって生み出された音楽なのだが、ロックン・ロールがロックと呼ばれる頃になると黒人のロックン・ローラーは数を減らしていくことになる。