永いことロックを聴いていると英国のロック・ファンや音楽メディアの冷たさに驚くことがある。
1990年代に登場したADORABLE〔アドラブル〕はそんな英国のロック・ファンや音楽メディアに翻弄されたバンドだった。
1992年に1stシングルの"Sunshine Smile"をリリースするとインディー・チャートの1位となり、英国のロック・ファンや音楽メディアから好意的に受け入れられたものの、翌年の1993年に1stアルバムの「AGAINST PERFECTION」をリリースする頃には見向きもされない状態になっていた。
「AGAINST PERFECTION」を発売日に購入し、「このアルバムは傑作だ」と思っていた筆者にとって、これはかなりショッキングな出来事だった。
否、別に「AGAINST PERFECTION」が売れようが売れまいがそこはどうでも良かったのだが(もちろんバンドにとっては売れた方が良いのだが)、本当に良いと思えたアルバムだったので、それを全く評価されなかったのが悔しかったのである。
「ECHO & THE BUNNYMEN〔エコー&ザ・バニーメン〕のシンガーIan McCulloch〔イアン・マッカロク〕が歌うTHE HOUSE OF LOVE〔ザ・ハウス・オブ・ラヴ〕」という評価のされ方をしていたが、筆者ならその二つのバンドの名前を引き合いに出すのであれば違う表現をしたい。
「美しい歌メロを持つECHO & THE BUNNYMEN」、或いは、「ナルシスティックに歌い上げるTHE HOUSE OF LOVE」という言い方の方が相応しい。
ロック・ファンや音楽メディアから手のひらを返され徐々に評価を下げていったバンドなので、今回取り上げる2ndアルバムの「FAKE」をリリースする頃には話題にすらならず、その後は予想どおりの解散だった。
しかし、ここではっきりと言いたい。
英国のロック・ファンや音楽メディアがどう評価しようが、ADORABLEはバンドの後期にいくほど楽曲のクオリティが高い。
そもそも初期の頃から楽曲のクオリティが高いバンドなのだが、2ndアルバムでありラスト・アルバムでもある「FAKE」の楽曲は凄いことになっている。
特に2曲目に収録されている"Vendetta"が素晴らしい。
シンガーのPiotr Fijalkowski〔ピョートル・フィヤルコフスキー〕が狂おしく歌い上げるこの屈折したラヴ・ソングは聴く者を昇天させる神曲であり、「FAKE」というアルバム象徴する一曲だ。
シューゲイザーとネオ・グラムの狭間(はざま)に咲いた徒花(あだばな)とも言えるバンドだが、RIDE〔ライド〕(シューゲイザーを代表するバンド)にもSUEDE〔スウェード〕(ネオ・グラムを代表するバンド)にも描けない世界をADORABLEは描いて見せてくれた。
そう言えばこのアルバムが発売された当時、同じアルバイト先のT君に聴かせたところ、彼もこのアルバムを大変気に入ってくれた。
T君は今でもADORABLEのことを憶えてくれているだろうか?