2018年現在、グラム・メタルと呼ばれているジャンルは、そのムーヴメントの最盛期である1980年代の日本ではLAメタルと呼ばれていた。
そのジャンルのバンドの多くが米国カリフォルニア州ロサンゼルス(L.A.)を拠点に活動していたことがLAメタルという呼称の由来だ。
故にLAメタルとは、ほぼ日本でのみ通用する呼称であり、世界的にはグラム・メタルと呼ばれることが普通で、ここ日本でも最近ではLAメタルではなくグラム・メタルという呼称の方が通りやすくなってきた。
さて、そのグラム・メタル(LAメタル)の代表的バンドと言えば、MOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕(正式なバンド名はOとUの上にウムラウトという横並びの二つの・が付く)とRATT〔ラット〕ということになっているようだが、2018年現在でも大物バンドとして扱われているMOTLEY CRUEに対し、RATTの扱いは少々寂しいものがあると言わざるを得ない。
しかし、1980年代のグラム・メタル・ムーヴメントをリアルタイムで体験した者の感触としては、デビュー当時のRATTの人気はMOTLEY CRUEを凌駕していたと言い切れる。
それどころか、今では誰もが認める大物のBON JOVI〔ボン・ジョヴィ〕ですら、RATTの人気には到底敵わない位置にいたのである。
RATTというバンドはとにかく女子からの人気が高かった。
当時のMOTLEY CRUEやBON JOVIに比べ、RATTが女子からの人気が高かった理由は簡単である。
RATTというバンドは奇跡的なくらい、メンバー5人のルックスが良く、普段はDURAN DURAN〔デュラン・デュラン〕のようなポップ寄りのバンドを聴いていた女子までもがRATTを好んで聴いていたのである。
こう書くと、RATTがチャラチャラした軽薄な偽物のメタル・バンドという印象を与えてしまうかもしれないが、実はこのバンド、音楽的にはかなり硬派なメタル・バンドであり演奏技術も高い。
今回取り上げた1stアルバムの「OUT OF THE CELLAR」は、そんな彼らの硬派なメタル・バンドとしての側面が強く出た作品である。
このアルバムは彼らの代名詞ともなった"Round And Round"だけのアルバムではない。
全編を通して、鋭いエッジを持ったRATT流ヘヴィ・メタル(これをRATT自身はRatt’n’Roll〔ラットン・ロール〕と呼んだ)であり、1980年代のグラム・メタル・ムーヴメントに刻まれた名盤である。
RATTの音楽性を語るときに、しばしば「明るくて開放的」と言われることがあるが、筆者個人の感覚としては、そういう印象は無い。
RATTの音楽性には彼らよりも少し後で人気を博したPOISON〔ポイズン〕やWARRANT〔ウォレント〕のような親しみ易さやポピュラリティは無い。
むしろ、ヴォーカルのStephen Pearcy〔スティーヴン・パーシー〕の声質は独特であり、ダーティで親しみ難いほどであるが、これが無いとRATTにはならないのである。
Stephen Pearcyのアクの強いヴォーカルをこのバンドの魅力に変えてくれているのが演奏陣の技術力であり、特にWarren DeMartini〔ウォーレン・デ・マルティーニ〕のテクニカルなギターである。
1980年代のグラム・メタル・ムーヴメントの頃、Warren DeMartiniに憧れるギター少年は沢山いたが、Mick Mars〔ミック・マーズ/MOTLEY CRUE〕に憧れるギター少年なんて、少なくとも筆者の周りではいなかった。
RATTに対し、チャラチャラした軽薄なグラム・メタル・バンドという先入観を持っている人は、ぜひ、この「OUT OF THE CELLAR」を聴いて、彼らのヘヴィ・メタル・バンドとしての神髄を確認して頂きたい。
ただし、ミュージック・ヴィデオから彼らに接するのは避けた方がよい。
1980年代というのは、そもそもそういう時代だったのだが、初期のRATTもご多分に漏れず、なかなかの軽薄ぶりを遺憾なく発揮している。